弥彦篇/2

巴が剣心の胸に、その白い手のひらを当てた。
「どれほどの血を、あなたが『此処』に流したか・・・」
「巴・・・」
「けれど無駄にはならないと。
 未来へ細くとも紡がれてゆくと、信じています」
「巴」
「―――はい」
剣心は巴の手を取り、柔らかくその甲に口づけた。
そして膝を崩して、ゆっくりと巴の方へ向き直る。

(君が居れば)
(君が居る限り)

自分たちはよく似ている。
だから、これ程惹かれるのだ。
だから、共にいることで苦しみも背負うのだ。
それは、繰り返し何度も思い知らされた事実。

そして。
―――自分は巴に生かされているのだ。

白い彼女の額に唇を落とす。
小さく震える彼女の目蓋に唇を落とす。
微かに桜色して頬に唇を落とす。
そうして、華奢な顎を掴んで。
幾度となくあじわったその紅い唇を、貪る。
復讐も裏切りも嘘も。
取り返しのつかない過ちも果てることない償いも。
それらまるごと抱え込んで、ふたりで抱き合う。

ふたりで、生きる。



「・・・ふっ・・・ぅ・・・」
吸い尽くされるようだ、と巴は思う。
真っ白な脚の間で蠢く赤い髪を、痛いくらいに掴んで。
濡れた音がやけに鮮明に響くのが恥ずかしい。
彼の舌がどんな風に動き回るのか脳内で再生してしまうのが、恥ずかしい。
恥ずかしくて、でも嬉しくて、身体は火照り続ける。
何処までも何処までも剣心が自分を求め喰らうのが嬉しくて、 身体が喜(よ)がり震え続ける。
「あ・・・あ・・ああ・・」
潤んだ甘さを含む声があがる。
痛いほど喰らいつかれる。
・・・けれどもしかしたら。
わたしが彼を喰らっているのかもしれない。

「あ、あ・・・ひっ・・・」
伸ばされた腕が空で足掻く。
そして。
熱い指が、巴の行き場のない腕をすぐさま握りしめ。
・・・受け止める。

ふたりの、在り方。
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