新月村篇・後/3

「う、わああああ!」
びっくりした操は数歩後退り、剣心はいやあな顔をして 足を止めている。
「姉さんをこんなに待たせるとはっ!!
 緋村、おまえ何やってたんだっ!」
―――縁のこめかみには、青筋が浮いていた。
(こ、この無礼なヤツが緋村の待ち人!?)
冷や汗を流しながら操は剣心と縁の顔を交互に見る。
(あ、でもこのメガネ、姉さんって云ってた・・・姉さん!?)
せっせとふたりの顔を見比べながら、操は考えた。
(姉ってことは女性よね?
 だあああっ!緋村ったらこんな害なさそうな顔して女と!
 この大事な事態に待ち合わせ!?)
眼を白黒させている、そんな彼女に構うことなく。
縁はずかずかと剣心に近づくとぼきり、と指を鳴らした。
「どこで油売ってた、緋村?」
返答次第ではすぐにぶん殴られそうな雰囲気だが、 剣心は臆することなく「うるさい」と返す。
・・・操の目にその瞬間、びしびしと巨大な氷柱(つらら)が 幾層にも映った。
(こ、こわい・・・っ!)
なんか緋村って尖角と闘(や)ってた時より、怖くない!?
などと冷静に観察しつつ、操はそろそろと後退を続ける。
本能が危険を告げているのだ。
「おい、云い訳なら今のうちに聞いてやるぞ?」
「“おまえ”に云うことは何もないが?」
びゅおおおお。
―――殺人的な吹雪だ。
「毎度毎度反省というものを知らないらしいナ」
「・・・小舅・・・」
「ああ!?おまえは嫁か!?」

ビキビキビキ。

(今割れた音がしたよっ)
(数尺くらい分厚い氷が割れたって!!)
操は完全に恐慌状態に陥っていた。
(神さま仏さま蒼紫さま〜〜〜っ)
しかして。
操の祈りは通じたのだ。
■次へ
■『京都日記』目次へ戻る

TOPへ