新月村篇・後/2
「どうしてついてくるのか、訊いてもいいか?」 「だって気になるじゃない! せっかく葵屋で泊まれば、って爺やも云ってるのに。 なんでわざわざこんなトコにくるのさあ?」 「・・・約束があるんだ」 「明日でもいいのにこんな夜中に何を急ぐの?」 「操殿・・・」 操の云う『爺や』は実は「翁」と呼ばれたお庭番だった。 剣心がかつて人斬り抜刀斎であったこともすぐにわかったようだ。 蒼紫たち御庭番衆の顛末を彼に語り、操を無事送り届けたことで 剣心はそこを立ち去ろうとしたのだ。 しかし。 「ねえねえねえ、約束とか済ませちゃったら葵屋においでよ。 爺やも全面協力するって云ってるし」 「だが・・・」 「新しい刀、必要なんでしょ?」 「うっ」 「緋村の刀、そんじょそこらの鍛冶師じゃ打てないよね?」 痛いところを突いてくる。 我知らず眉間に皺を寄せて剣心は考え込んだ。 折れてしまった逆刃刀は刀匠新井赤空が造ったものだ。 おそらく彼は京都にいるとは思うが、それでも今の居所を探し出すのは 確かに剣心ひとりでは重荷だ。 けれど翁や操を志々雄との闘いに巻き込んでしまうことを、剣心は 是としなかった。 「・・・緋村ぁ、遠慮なんかしなくてもいいのに」 「操殿」 「爺やもそう云ってたし、あの爺やを見れば緋村の遠慮なんか 吹っ飛ぶってもんだし」 「・・・反論できない・・・」 全くもってそうだろう。 翁は操とよく似ていた。 こうと云ったらテコでも動かないだろう。 はあ、と剣心は軽く息を吐いた。 操は緋村って頑固よね、とぶつぶつ云っていたが やがてぴたりと足を止めた。 「あ、あそこの宿屋だよ。 緋村の目的地」 「ああ―――」 昔、小萩屋があった場所からそう遠くない宿屋。 剣心と巴で決めた、待ち合わせ場所だ。 そそくさと操は剣心を追い抜いて歩き始める。 この先にいる、剣心の待ち合わせ人が気になるからだ。 (緋村を待ってる人って誰だろ? やっぱ剣術に長けてるのかな。 だとしたら、蒼紫さまの情報も出てくるかも) そんなことを思いながら、宿屋の看板まで近づいた時。 いきなり男が彼女の目の前に立ち塞がり、「遅いっ!!」と一喝した。 ■次へ ■『京都日記』目次へ戻る TOPへ |