新月村篇・前/3

「蒼紫さまたち、今頃どこで何しているんだろ」
ひょんなことから知り合った娘は、一歩一歩京都に近づく度に 楽しそうに笑った。
巻町操。
四乃森蒼紫に会うために、年端もいかぬ身でひとりあちこちを 訊ね回っているらしい。
「ねえ、まだ教えてくれないの?
 あんた、蒼紫さまをしってるんでしょ?」
「・・・」
剣心は心の中で嘆息した。
できるだけひとりで、誰にも関わらず京都を目指していたのに、 どうしてこんなことになったのか。
しかもよりによって蒼紫の知人とは・・・
蒼紫とその仲間たちを家族のように想っている少女。
しかし蒼紫以外の仲間たちは、すでにこの世に居ない。
(けれど・・・いつかは知ってしまうんだろうな)
それは自分の口からか、他者の口からか。
いっそ全て話しまえば、彼女はどうするだろう。
(・・・蒼紫は俺の命を狙っているんだったな)
森の中、けして歩きやすくはない獣道を。
御庭番衆の話を嬉しそうにしながら、剣心に付いてくる。
おそらく操は、真実を知っても自分につきまとうことは止めまい。
(少し薫殿に似ている)
ふ、と剣心は笑みを漏らした。
この溢れる生命力は、きっと蒼紫にも必要に違いない。
いい形でふたりが再会できればいいのだが。
「ちょっと、緋村!なにぼーっとしてるの?
 お腹空いたんなら一個だけ乾パンあげよっか?」
「いや・・・それよりも先を急がないと」
予定よりも半日ほど遅れていた。
操がくの一といえども、剣心に比べれば 足の速さも劣る。
「何をそんなに急ぐことが・・・」
口を尖らせて愚痴ろうとした操がはっと動きを止めた。
剣心は既に辺りを警戒している。
「こんな山奥で、人の気配・・・?」
操が緊張した面持ちで呟けば、剣心は一足先に其処へ向っていた。
そして、血塗れで瀕死の兄に抱かれた少年と出会い、 新月村のことを知ることになる。
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