新月村篇・後/7

「あなたは、彼にそれを示さねばなりません。
 あなたは・・・蒼紫に約束したんですよ?」
剣心はゆるりと顔をあげ。
ひた、とその琥珀の瞳に巴を映す。
「迷わないで。
 進んでください。
 わたしは」
剣心がやや苦しげに眉を寄せた。
「わたしは―――ちゃんと見届けますから」
僅かに、剣心の唇が開く。
だがそれは微かな息を呑み込みすぐに閉じられた。
巴は視線を反らさない。
そして剣心が反らすことを許さなかった。
剣心の左の手のひらが。
ゆっくりと巴の頬に触れる。
「君が・・・」
吐き出された言葉は、低く。
けれど熱く。
「君が、居れば俺は」
巴が酷く優しい微笑みを返し。
そのまま剣心は彼女を自分の両腕に閉じこめた。



額に、目蓋に、頬に、幾度も幾度も唇を落とす。
やがて互いの吐息が交わるほど唇と唇を寄せた。
剣心が舌先で、巴の唇を舐めれば。
呼応するかのように巴がうっすらと口を開く。
ふたつの赤い舌が遊ぶように触れあい、やがて摺り合わせるように 絡んだ。
「ん・・・ん・・・っ」
慣れているはずなのに、息苦しくて。
巴が小さく首を振った。
それでもお構いなしに剣心は、彼女の口腔を貪り続ける。
くちゅり、と耳を覆いたくなる音を妨げることすら叶わなくて。
巴は力なく剣心を肩を押した。
「・・・は、ふぅ・・・」
それに気づいて、ようやく剣心は巴の舌と唇を解放した。
顎まで滴るどちらの物ともつかない、唾液を右の親指で拭う。
目元をうっすらと赤く染めた巴の、その艶やかな表情(かお)を 見つめながら。
くすりと剣心は笑みを漏らした。
「今日は我慢して、これだけにする」
「・・・」
ぷくりと僅かではあるけれど、巴が頬を膨らませた。
「なに?」
相変わらずにこやかなままで剣心が訊ねれば、 ぐいぐいと巴はその白い指で、剣心の顎先をお返しとばかりに拭う。
「本当は疲れてらっしゃるくせに・・・!
 全くあなたは、減らず口ばかり」
「そういうけれど、俺は今も君が欲しくてたまらないんだけど」
細い首筋に唇を滑らせて。
きつく吸い上げれば紅い痕。
巴はちり、とした痛みに疼くような喜びを覚えながら、剣心の やや乱れた髪を掻き上げた。
「・・・もっと・・・」
喘ぐような息で、はっきりと剣心の耳に告げる。
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