新月村篇・後/6

操が去っただけで、その部屋には静寂が訪れた。
なんとなくこほん、と剣心が空咳をすると、巴が小さく笑って 「お茶淹れましょうか?」と話しかける。
剣心は照れたように己の首筋を指でなぞりながら頷いた。
「・・・いろいろあったようですね」
茶葉の香りが、心地よかった。
巴の傍が、心地よかった。
思わず剣心は素直に認める。
「ああ、正直に云えば予測よりひどかった」
巴は軽く目を伏せた。
自分たちが出逢った、この場所(まち)で。
“抜刀斎”の“後輩”である『志々雄真実』を止める。
一筋縄ではいかないことは承知していたが、愛刀が折れる事態に なってしまったのだ。
巴は程よく温んだ茶を剣心に手渡すと、さり気なく 彼の左側に座り直した。
「・・・逆刃刀もそうですけど、四乃森蒼紫のことが気に掛かるのでは?」
やや抑えた声で、巴が問う。
ぱち、と音がしそうな程剣心は大きく瞬きして。
まいったな、といった風情で頭を掻いた。
「操殿が彼の所在を探していると云った。
 それだけでわかったのか?」
「そうですね・・・なんとなく、ですけれど。
 蒼紫の件に触れた時、とても愛おしい表情(かお)をされました。
 あんなに元気で明るい少女の、どこに隠れているのかと 思うくらいに」
剣心は少年のように膝を抱えて、己の膝頭をじっと見た。
「そうだよな、俺もびっくりした。
 彼女が蒼紫の知り合いだということよりも、蒼紫に恋をしていることが」
蒼紫は、どう生きるつもりだろう。
俺を殺すまで、ただその事のみを考えて。
―――ひたすら、その事のみを。
まるでそれは。
昔の自分を見ているようだ。
「・・・大丈夫ですよ」
巴の指がそっと剣心の右手に触れた。
「大丈夫。
 あなたが無意識に蒼紫の中に見出したものは、きっと 間違いありません。
 ・・・彼は立ち直ることの出来る人間でしょう」
「うん・・・」
ふたりの手は離れることなく、むしろ固く固く、 力が込められてゆく。

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