新月村篇・後/5

「大方の話はわかりました。
 いろいろありがとう、操さん」
巴が柔らかな口調でそう礼を述べると、 ようやく操は剣心から視線を外して「いえいえ」と 右手を軽く振る。
「さっきも緋村に散々云ってたんですけど、 あたし達、協力しますから!
 遠慮なく甘えて下さい!!」
「操さん・・・」
巴はとびきりの優しい微笑みを浮かべた。
なんて可愛いんだろう。
・・・剣心の周りには、 なんて素敵な人達が集まるのだろう。
「操さん、ありがとうございます。
 そうですね、何かと京都の方々のお力添えは必要と なるでしょう。
 緋村もそれは重々承知しているはずですけど・・・」
「ああ、ううん、そうよね!
 緋村って自分からそんなこと頼まない感じですよね〜。
 わかりました!
 勝手にやらせてもらいます」
「まあ、頼もしい」
「そりゃあそうですって!」
にこやかに巴は操の話を聞いている。
俺には関係ない、といった表情(かお)をしていた縁も、 女たちの意味不明な会話がぽんぽん弾んでいる気がして。
こっそり面食らっていたりしていた。
「巴・・・操殿」
たまらず口を挟んだのは剣心だ。
「今夜はもう遅い。
 細かいことは明日にしないか?」
「そうですね、わたしったらうっかり・・・」
巴も素早く相づちを打つ。
さすが夫婦、などと縁は断じて認めはしないが。
「おまえひとりくらい部屋も取れるだろう。
 交渉してやる、来い」
縁は面倒くさそうに立ち上がると、すたすたと敷居を跨いで部屋を出た。
とんとん拍子で丸め込まれた形になった操は「じゃ、そうします」と にこりと笑って。
ぶんぶんと剣心と巴に手を振って縁の後を付いていった。
ぴょんぴょんとまるで跳ねるように操は縁に続いて階段を降りる。
「ふたりっきりにしてあげるんだー」
「・・・・・・」
「無愛想なくせに気が利くんだね!」
「・・・・・・」
「まあ、おねーさんの為だけって感じだけど?」
「それ以上喋ると、斬る」
「あっはっはー」
女は嫌いだ、と縁は盛大に眉を顰めた。
大概の女は、こういう時だけやけに敏感なのだ。
全く腹の立つ。
―――無言の縁の背を眺めて、操は悪戯っ子のように喉だけで笑った。
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