左之篇/5

思い返すと恥ずかしくて、薫は真っ赤な顔を俯かせた。
その仕草が愛らしくて、また巴は小さく笑う。
「緋村の過去を識った上で、 そんなことを云ってくれた人は殆どいませんでした。
 ―――わたしが彼と出逢った頃は、 わたしは彼を『抜刀斎』としてしか認識できなくて。
 そうして真実(ほんとう)の『彼』を知った時には ・・・取り返しがつかなくなっていた」
「巴、さん・・・」
薫は改めて巴の顔を正視した。
雪のように白い肌。
曇りのない漆黒の瞳。
彼女の所作は静謐だけれども。
ぴん、と張った背筋は彼女の確固とした意志を感じさせる。
薫は今更ながら、『緋村剣心』が 『人斬り抜刀斎』であった事実に思いを馳せた。

どれ程の、葛藤や障害を経て。
ふたりは。
“此処”まで来たのだろう――――――

「あ、あの!」
きちんと考えを整理する前に、薫は口を開いていた。
「はい?」
「え、えっと」
「・・・?」
「ま、また遊びに来てもいいですか!?」
巴は目を丸くした。
そうすると少しあどけなく見えて、愛らしかった。
「・・・い、いいです、か?」
性急すぎたかと、薫は恥ずかしくて。
声がやや小さくなる。
巴がふわりと笑って。

頷いた。



「なあ、剣心」
「ん?」
兎にも角にも。薫が席を外したとなれば、 弥彦の肩も何故か軽くなるというもの。
幸い巴も薫と一緒だ。
気にかかることは訊いておくべきだろう。
弥彦は頬に張り付いた米粒を気にすることなく、言葉を繋いだ。
「ここに来る道のりが、わざわざ入り組んでたような気がすんだけど?
 なんかあんのか?」
剣心はおやおやといった風情で目を大きくした。
そうすると彼は童顔がさらに幼くなるようで。
弥彦は笑おうにも笑えない。
「・・・薫殿は心ここに有らず、で気が付かなかったようだが。
 弥彦は始終冷静だったからなあ」
ぽりぽりと剣心は頭を掻いて笑った。
「・・・そんなに悪いヤツではないと思う。
 けれどあれだけはっきりと闘気を撒き散らされるのは困る」
弥彦は最初ぽかんとしていたが、やがて思い当たったのか 「あ!」と声をあげた。
「この間の・・・?」
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