斎藤篇(前)/9

剣心は目の前でどっかりとあぐらを掻く斎藤へ、うんざりとした 表情(かお)を向けた。
「・・・鬱陶しい・・・用件を早く云え」
「おっと、そうだったな」
心底厭そうな剣心の態度をこっそり楽しんでいた斎藤は、 そろそろ本題に入るべくその糸目をゆっくりと見開く。
懐から煙草とマッチを取り出すと、慣れた手つきで火を点けた。
「吸い過ぎだ」
「余計な世話だ」
ふーっと吐き出した紫煙がうっすらと纏わり付くのを、 厭うように剣心が眉を寄せ。
斎藤はその視線が己から動くことを許さないかのように、
「志々雄」
と短く云い放った。

ぴり

斎藤はふたりの間の空気が、まるで肌を刺すかのように 張り詰めたことに気づく。
「―――志々雄、真実」
剣心は感情を一切消した顔で、その名を呟いた。
まさか、と否定しつつ。
何処かでいつかは、と“解って”いたのかもしれない。
「京都で密かに動き始めたようだ」
「生きて、いたのか」
「・・・ああ、しっかりな」
すい、と剣心は立ち上がるとその翳った瞳で「それで?」と斎藤へ問う。
紫煙を燻らせたまま斎藤は「大久保卿がお呼びだ」と 素っ気なく答えた。
「・・・わかった」
簡潔に答え、そして剣心ははっとする。
「もしや、お前と組むのか?」
ぷかり。
輪の形をした煙を吐き出して。
斎藤はにやりと嗤った。
「ひとりじゃ荷が重いんだとよ」
「・・・ちっ」
「おや、今舌打ちが聞こえ・・・」
「気のせいだ」
剣心は速攻で否定しておき、そして ふと思いついたように訊ねた。
「時尾さんは、達者か?」
ぷかぷか。
あぐらをかいたまま、斎藤は旨そうに 煙を吸い、吐き出し。
「・・・時尾か、元気だぞ。
 今頃は巴さんと茶の湯でもしていそうだな」
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