斎藤篇(後)/8

「き、京都!?」
さあ、と薫の顔が青ざめた。
弥彦も初めこそ驚いた顔をしていたが、すぐに引っ込めた。
黙して、剣心の話を聞いている。
「・・・これから大久保さんに会ってくる。
 これからのこともあるし」
剣心は苦笑いしながら、それでも微かに震えている薫を心配した。
急なことで反応出来ないかもしれない。
彼女と、弥彦と、そして恵と。
この道場での日々はとても、剣心には楽しかった。
おそらく天涯孤独の身である薫も。
「・・・全部終わったら、またここに帰ろうと思ってる」
ぽつり、と付け足すように零された言葉に、薫は 大きく目を瞠った。
「俺も―――巴も。
 居心地がよかったし」
「けん・・・しん」
少女の瞳がきらきらと潤んだ。
それに気づいて、 弥彦は頭を抱えるようにして俯き、唸る。
(恋を諦めようとしている女に、普通そんなこと云うか!?)
(そりゃ剣心は薫のそんな気持ちに、気づいてる訳じゃないけど)
(・・・じゃない!今はそんなことより日本にとっての一大事な話だ!!)
(だけど剣心って、時々アホだよな。
 あんだけ頭が切れるっつーのに)
(ばか!俺ってば!!
 それよりも今は京都だ!京都っ!!)

「・・・弥彦?お腹痛いの??」
気がつけば、薫がぐっと顔を近づけて自分を観察している。
大きな瞳をきらきらさせたままで。
「う、あ、いや・・・大丈夫だって!!」
慌てて弥彦は手をぶんぶんと振った。
しかし薫はそお?と首を傾げて、やや不服そうだ。
「・・・うっさいな!考えてたんだよっ」
「何を?」
「京都へ行くことをさ!」
しまった、と思った時は既に遅く。
薫も剣心もぽかんと自分の顔を見ている。
(うわ、何云ってんだ俺)
(願望・・・?まさか俺の願望なのか!?)
苦し紛れだったが、それはそれで良いのかもしれないと 弥彦の立ち直りも早かった。
「わ、悪いかよ・・・?
 薫だってほんとは行きたいくせに」
薫はぎくりと肩を揺らすとちょっぴり涙目で弥彦を睨んだ。
「あんたみたいに考えなしで、いざ京都なんてそうそう 云えるわけないでしょ!」
「あんだと?こら!」
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