上京篇/3

冷たい。
まだ真冬なのだ。
床を直に掴もうとする指先が冷たい。
なのに、熱い。
身体の芯に灯された火が、どんどん大きくなってゆくのを。
巴は快感とともに自覚してゆく。
「は・・・は・・はっ」
短くなってゆく巴の呼吸に合わせるように、剣心の愛撫が性急になってくる。
そうすると、ほんのりと桜色に染まってゆく肢体を、 眩しそうに見つめながら。
剣心は彼女の上半身に舌を這わせ続けた。
「や・・・ぃや・・・」
剣心の頭を押し返そうとした筈の腕は、 いつの間にか掻き抱くようにして締め付けた。
それすら気づかないで、巴は細く高く声をあげる。
床に大きく広げられた、二人分の着物が。
不規則に衣擦れの音を立て続け、うねうねとくねる。
互いが一糸纏わぬ姿になった時、
剣心は愛おしげに彼女の背中を抱きすくめた。

真っ白な、そのたおやかな背に。
ひと筋の傷が大きく刻まれている。

明らかに変色して紅いような紫のような色をしていた。
周りの皮膚が引き連れて、細かな皺をうねらせ、歪んでいる。
剣心はそっとその傷跡に唇と舌を触れさせた。
うなじの辺りから、肩胛骨を降りて背骨の窪みを辿る。
「っ・・・あぁ」
もう痛みはないけれど、巴が切なげに啼いた。
彼女を抱くときに、必ず彼はその古い傷跡を舐める。
獣が、傷を癒すために舌を使うように。
・・・一生消えないと云われた。
季節の移ろいごとに痛みが来るだろうとも云われた。
そして。
子を為す機能にまでそれは及んでいると。

唇で傷跡を愛撫しながら、剣心の両の手のひらが、 俯せた巴と床の上に薄く広がった着物の間で、動き回る。
たまらず巴が背を反らすと指が胸の頂点を捕らえた。
「あ、あ、いや・・・」
反射的な喘ぎが、少しずつ増え始めて。
やがて艶を帯びて更に剣心を煽るのだ。



子は、望めない。
傷の疼きも、消えない。
剣心が、巴に負わせた―――刀傷。

「とも・・・え」
彼女の背中に覆い被さり、 磔(はりつけ)るかのように片手で彼女の手首を押さえ込む。
もう片方の手で細い腰を掴んだ。
「・・・あ!!・・・あっあっ・・・・」
一気に進入されて巴が仰け反る。
苦しげに呼吸を繰り返し、双眸が潤んだ。
「ともえ、とも・・・」

激しく彼女を揺さぶりながら、剣心は何度も何度も反芻するのだ。

それでも。
それでも。
君が、ここに居ることは。
望んだ以上の。
身が竦むほどの。

――――――よろこび。
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