蒼紫篇(前)/4
「・・・教えて、ください」 はぁ、はぁと甘やかな喘ぎとともに、巴が訊く。 「ぅ・・・っ、な、にを・・・?」 彼女が、剣心の身体の上で揺れる度に。 長く艶やかな黒髪が、はらはらと彼の胸で踊る。 男にしては細いその両肩に、時折爪を立てているのにも、気付かず。 彼女はほぼ快楽に溺れているかのようだった。 「わ、たしたちが・・・っ、こうなったの・・・は」 「俺た、ちが・・・?」 剣心は片手で全ての体重を支えると、 空いた右手を伸ばして目の前の白い膨らみを掴んだ。 「あ・・・っ!あ、あ・・・」 一度果てて過敏になっている巴はそれだけで、大きく背を反らす。 その動きが中心へ直に伝わって、剣心も思わずぎりりと奥歯を噛みしめた。 は、は、と短い呼吸を繰り返しながらまた巴が剣心の肩に爪を食い込ませる。 「こ、れは・・・っ、何で、すか・・・」 「と、もえ・・・」 彼女の形の良い頤から、ぽとりと汗が落ちた。 「運命、なの・・・原罪(つみ)、なの・・・っ?」 剣心が巴を強く引き寄せた。 その白い背に残る傷跡に吸い付いたかのように。 ふたつの身体が、ぴたりと寄り添って。 そうして互いを貪るかのように蠢き続け。 「あ、ふっ・・・・」 剣心の手のひらが、傷跡の上を滑ったかと思うと巴の頭を覆った。 「なんだって・・・いいんだ」 強引に彼女の顔を自分の肩に寄せる。 柔らかでしっとりとした乳房や、ぴくぴくと震える腹筋が剣心の 身体に押し付けられた。 降り懸かる黒髪ごと彼女の耳朶を噛んで、もう一度彼は「いいんだ」と 繰り返す。 「そんなことは、何にもならない。 君に触れる、君を抱く、君を求める―――この俺の希求を堰き止められる 言葉や感情や・・・咎なんて、無いに等しいんだから」 「で、は」 巴が突き上げられる身体を必死に捩って。 剣心の色の薄い双眸を覗き込んだ。 剣心もそれに応えるかのようにじっと見つめ返す。 「・・・では、共に」 巴が甘いけれど、どこか厳かな声音で紡いだ。 「幸も不幸も、罪も喜びも、背徳も裏切りも・・・何もかも、共に」 「そう―――そう、だな」 ■次へ ■『東京日記』目次へ戻る TOPへ |