蒼紫篇(後)/10

「弥彦くんが心配?」
見透かしたように、巴が訊ねた。
かたかたと走り出そうとした薫が、ぎょっとして振り返る。
「・・・なんでわかっちゃうんですか〜?」
端から見ても丸わかりなのだけれど。
巴はそっとため息を吐く。
ふらりと出会った剣心に宿まで提供しようとしたし、 行く当てのない弥彦を居候させ、 文句を云いながらも恵まで暫し住まわせたのだ。
薫は面倒見が良い。
それは反対に心配性でもある、ということに通じる。
「弥彦くんは一番小さいし、経験も少ないし、不安にならない方が おかしいわ」
でも、と巴は言葉を続ける。
「緋村が一緒に来ることを許したのなら、弥彦くんは大丈夫よ。
 左之助さんの強さは、薫さんもご存じの通りでしょ」
薫はぱちぱちと二度瞬きをして。
そうして、晴れやかに笑った。
「はい・・・そうですね!」
藍色のリボンを揺らして、今度こそ炊飯の為に駆けてゆく。
それを見届けてから、巴の顔がふいに翳った。

(―――そう、あの人は守るだろう)
己を顧みずに。
(わたしの知らないところで傷ついて)
(わたしの知らないところで激昂して)
(わたしの知らないところで嘆く)
でも、一番恐ろしいのは。
彼を感じることが、出来なくなることだ。
(お願い)
ちゃんと、帰ってきて。
そうしてわたしは。
あなたを抱きしめよう――――――
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