蒼紫篇(後)/9

そして観柳は思いの外短気で荒っぽい人間だった。
高荷恵が脅されて仕方なく観柳屋敷に戻ったのは蒼紫が 巴と会った次の日だったのだ。

「・・・弥彦もついていっちゃって。
 足手まといになんなきゃいいんだけど」
やや青白い顔をして、薫は巴に告げた。
薫があの日起こった慌ただしい展開を、巴に告げて早二刻。
常日頃にぎやかだった神谷道場はしん、として。
それがまた薫の不安を大きくさせているようだった。
「・・・恵さんって方は・・・あなた達を大切に思ってるのね」
「―――え?」
「言葉はきついけれど。
 本当は、優しい女性(ひと)ね」
薫は真っ黒で大きな瞳を瞬かせて、頷く。
「彼は、そんな人を放っておけないの」
「剣心、ですね・・・」
「そう、だから絶対無事にみんな帰ってくるから」
「左之も、そう云って・・・ました」
巴はにこりと笑って、薫の右手を握った。
「では左之助さんの伝言通り、お風呂と食事の用意を」
「そう・・・ですね!」
薫はぎゅっと巴の手を握り返した。
普段から巴は体温の高い方ではないけれど、今夜は特に 指先が冷たく感じる。
(巴さんも、心配なんだ)
そうだ、わたしなんかよりずっと。
こんな当たり前のことに、今まで気づかなかったなんて。
(しっかりしろ、薫)
薫は殊更笑顔で「ご飯炊かなくっちゃ!」と明るく声を上げた。
(剣心は、強い。
 左之助も、弥彦もついてる)
そこで薫ははた、と不安になる。
(って、弥彦はまだ子どもだし。
 足手纏いってことも・・・)
確かに見所はある。
大人の視点で物事を捉える事が出来る。
(だけど肝心なところでガキってゆーか・・・)
己の理想を曲げず、強情を張ることがままあった。
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