蒼紫篇(後)/7
(この弟(こ)に、支えられる日が来るなんて) 巴は密やかに、それでも嬉しさを隠すことが出来ずに相好を崩した。 「何にやついてるんだよ」 それに気づいた縁がふてくされたような顔をする。 気に障ったのならごめんなさい、と巴はくすくすと喉を鳴らしながら 謝ると「何か食べていったら?」と誘った。 縁は数瞬考えて、ゆるゆると首を横に振る。 「いや、今夜はもう帰る。 あのお庭番衆について調べたいことも出来た」 「何か気になることでも?」 ぱちぱちと瞬きを繰り返し、巴が訊ねると、縁は片眉を ぴくりと跳ね上げ意地悪く笑った。 「・・・姉さんが知りたいかと思って」 「・・・・・・」 瞠目し言葉を失った巴のその様が、縁の科白を肯定していた。 「・・・縁」 「なんだい?」 縁はやはりにやにやしたまま。 「縁」 「?」 す、と巴の白い腕が閃いたかと思うと。 ぐしゃぐしゃぐしゃ 思い切り彼女は縁の頭髪を掻き回した。 巴が死んだと、と思いこんで一瞬で真っ白になった髪。 ぐしゃぐしゃぐしゃ 「な、なんだよ?」 さすがに笑うのを止めて縁は目を眇めた。 「だって、つまらないわ」 ぽそりと呟いて漸く巴は指先を止める。 山嵐のようになった頭を慌てて縁は撫でつけた。 その様子を見て、ふふ、と巴は子どものような表情(かお)で笑った。 「・・・だって、弟に出し抜かれたみたいで悔しかったんだもの」 縁は呆れたように、小さく息を吐いた。 「姉さんはさ、年取るにつれてガキっぽくなってないか?」 「・・・そう?」 ■次へ ■『東京日記』目次へ戻る TOPへ |