蒼紫篇(後)/12

左之助は掻い摘んで、蒼紫たち御庭番衆との間で起こった 出来事を彼女に話した。
そして薫と巴がまだ聞かされていなかった、蒼紫と剣心との 間で交わされた『約束』のことを。
ああ、やはり。
巴は一度だけゆっくりと目蓋を閉じた。
蒼紫が、巴へ向かって剣をあっさりと振り下ろす人間であれば ・・・事は此処まで縺れはしなかったのに。
それでも次の瞬間、開かれた巴の瞳はそんな動揺は微塵も 感じはさせないほど落ち着いていた。
「ご心配をかけました」
そう述べて、左之助に頭を下げる。
左之助はやや慌てて、とんでもねえ、と 頭(かぶり)を振った。
「あん時ゃ、むしろ剣心の方が俺や弥彦を 気遣ったくれえだったから、巴さんに頭を下げられる 道理はねえさ」
巴は少し困ったように首を傾けた。
「・・・いいえ。
 あの人は、自分だけについ背負いすぎてしまいますから。
 左之助さんも気づいてらっしゃるでしょう?」
左之助はぽりぽりと鼻の頭を掻いた。
剣心のように、いろいろなものを背負って生き抜いてきた 人間に対して、まだ年若い自分が心配するなど 図々しい、とは思っている。
しかし仲間と認めた相手が、こんな無茶を 繰り返すのを見ているのは正直辛いのだ。

緋村剣心は強い。
そして経験も智慧(ちえ)もある。

それを充分解っていてなお、彼の行動に やきもきしてしまうだから、 もはやこれは理屈ではないのだろう。
左之助はぼりぼりと頭を掻きながら 「巴さんの気持ちがちょいとわかった気がするな」と 笑った。
巴は悪戯が見つかった子どものように目を瞠って。
やがて小さく息を吐いた。
「・・・あの人は、そんな人間なんです。
 実際放っておいたら、きっと」



―――そこから先を巴は言葉にすることはなかった。
けれど左之助は思うのだ。
彼女が居るから、自分は剣心のその 自己滅私的な行動を少し気にかけるだけで済むのだ。
そう、巴が彼の傍に居ればこそ。
それはとても希有で尊くて。
左之助は無意識に眩しげに巴を見た。
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