蒼紫篇(前)/2

剣心はふ、と浅い息を吐くと顔を上げた。
「救けたい」
低くそう呟いて、 色の薄い瞳に、巴を映す。
「俺は、彼女を救けたい」
そう、繰り返すことで剣心の揺るぎない意志が解る。
「・・・はい」
小さく微笑みながら、巴は応えた。

これが、あなたの。
これが、わたし達の。

今を生きる、答。



剣心は巴の艶やかな黒髪をゆっくりと右手で梳いた。
巴はうっとりとしたような表情で、彼の為すがままにさせている。
「・・・すまない」
剣心が囁く。
ふふ、と小さく笑いながら巴が「何を?」と切り返した。
剣心は微かに目を瞠ると、困ったような顔をして巴を両腕に 抱き込む。

共に歩んできた年月に・・・ 比例するかの如く強くなった伴侶に感嘆しながら。

「昔も現在(いま)も、そしてこれからも。
 俺は、君にすまないと何度も思うよ。
 そして、それ以上に」
剣心はぐっとその腕に力を込める。
「―――いつもいつも、君が欲しい」

巴は少し眉を下げて「我が儘ですね」と呟いた。
剣心の腕の力はますます強くなる。
「そうだよ、俺の我が儘だ。
 あの時、君を喪う寸前だった。
 何に換えても君を喪いたくなかった。
 なのに俺は今でも剣を捨てられず、贖罪の道を探し続け。
 ・・・そうして君に負担を強いている」
「それは・・・」
「うん、わかってる」
それを承知の上で巴は剣心と共に在る。
彼女自身が決めた選択に、剣心が謝る必要はないのだ。
「だけど」

君にはもっと、幸せになって欲しかった――――――
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