蒼紫篇(前)/1

「・・・探っていた内の、ひとつがはっきりしたよ」
腰の刀を下ろし。
床に胡座をかくと剣心は顔を上げずに口を開いた。
巴がぴくりと目蓋を震わせたが。
他の感情は一切見せずに、まだ熱い手拭いを剣心に差し出す。
それを受け取って、ぐいっと顔を拭うとようやく剣心は巴へ 視線を向けた。
「・・・“阿片”の方だ」
巴は無表情なまま、剣心の正面で居住まいを正す。
「すでに犠牲者が・・・?」
「ああ。
 ―――左之の、知り合いだった」
きゅっと唇を引き結んで。
巴がそっと目を伏せる。
そっと腕を伸ばして、剣心は巴の左頬をその右手で包んだ。
そうしながら、また淡々と言葉を紡ぐ。
「左之と居た賭場に、 偶然駆け込んできた女性が例の阿片を精製していたらしい」

剣心はその女性『高荷恵』と、『武田観柳』そして『四乃森蒼紫』について 掻い摘んで説明した。
今夜起こった、異形の三人との戦いのことも。

巴はただ黙って聞いていた。
が、一通りの話が済むと己の頬にある剣心の手の上に。
ゆっくりとその華奢な白い指を絡めた。
「・・・無事でよかった・・・」
さらりと黒髪が彼女の肩に広がった。
剣心はゆっくりとその華奢な肩に、顔を埋める。
「厳しい、な」
「恵さん、のことですか?」
「自分を責め続けてる。
 それは仕方ない理由だけれど、そういうのを見るのは・・・厳しいよ」
「そう、ですね・・・」
巴が剣心の顔へ頬を寄せて。
淋しそうに目を伏せた。



たくさんの、犯した罪。
犯す罪。

突き放し、突きつけられ。

抱え込み。
彼も、彼女も、―――誰か、も。
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