いきなりクラウドの懐に飛び込んできたセフィロスは 一瞬の躊躇もなく、しなやかに長い刀を突き出す。
「・・・っ!」
クラウドは己の剣をとっさに盾代わりにして左手でその衝撃に 備え。
右足をセフィロスの腹へ喰い込ませようとする。
それは判断というよりも、反射だった。

ガ!

白い火花が弾けた。
セフィロスは軽く舌打ちしながら、最初の一振りがかわされたことを知ると、 蹴りを食らう前にくるりと回転して、クラウドから離れる。
着地と同時にまた跳ねて、再度クラウドの懐を狙った。
クラウドはまだ体勢が整わず、左膝を地に折ったままだ。
「ちぃっ!」
右腕の力のみで、ぶん、と剣を振ってまた攻撃を弾く。
だが、受け止めきれずザザッと後方へ倒れこんだ。
ふわ、と青銀の髪がなびき。
セフィロスの身体が浮きかけた。
その時、ひゅっとナイフが彼の視界を横切り、攻撃を中断させる。
ステップを邪魔されたセフィロスが、ナイフを投げた黒髪の少女へ向かって 首を捻じ曲げた。
クラウドはその瞬きの隙に、 体勢を戻してセフィロスから充分な距離を取る。

「なにやってのよ!?
 あんたの剣はでかいんだから、近寄らせちゃ駄目じゃないっ!」
ユフィが声を張り上げる。
強気ではあるが、セフィロスの視線が己に向いていることを感じて 身体が小刻みに震えていた。
「く、くくっ・・・」
だらりと刀を提げて、セフィロスが嗤う。
ぞくり、と悪寒が奔って、ユフィは無意識にシドの方へ身体を寄せた。

「―――なる程、異世界の者たちか。
 過剰なほど生命力に溢れた者たち。
 それがクラウドに力を与えているな」
「は?何言ってんだ、てめえ」
(シ、シドーー、口応えしないでー)
思わずセフィロスの攻撃を中断させたものの、 自分たちに向けられている不敵な笑みにユフィは多少びびっていたので、 はらはらしながらシドを見上げた。
そのシドもこめかみに脂汗を浮かべている。

「神子に近しい者は少なからずその秘めたる力に感応する。
 お前たちは『力』を欲したクラウドに、この世界に引きずり込まれたのだ」
「だから、なんだってんだ・・・」
「・・・何も知らず巻き込まれ、その運命は哀れだが」
かちゃ、とセフィロスが鍔を鳴らした。
「・・・邪魔はさせん」

ひゅうう!と刀が薙いだ。
驚いてユフィの身体が跳ねたが、セフィロスの刀は見慣れたクラウドの巨剣を 受け止めていた。
ぎりり、と空で刀と剣が軋み。
やがて二人同時に跳ねて間を取る。

「相変わらず御託好きだな、神官長」
「さて、お前は負けられぬな。
 負ければあの者たちは一生この霧の中で彷徨う羽目になる」
「そのつもりはこれっぽっちもない」
「くくく・・・」
長い腕を伸ばし、セフィロスは大きく刀をかざした。

ひょお、ひょお

彼の剣を取り巻くように、何かかが唸る。
「・・・霧が動く」
すい、とヴィンがシドとユフィの元へ近づいた。
「まじいのか?」
「まずいだろうな」
「・・・何がなんなのよぉ??」
「おまえよぉ」
「ん?」
「さっきのナイフ、どこを狙ったんだ?」
シドは目の端で、クラウドとセフィロスの動きを捉えながら、口を開く。
ユフィは軽く眉間に皺を寄せて一瞬考え込んだ。
「手・・・手首を狙った、外れたけど」
「ハズされたんだ」
ヴィンが間髪入れずに答えた。
「おそらく、な」
シドも同意して頷く。
ユフィがふたりの顔を交互に見比べ、そして対峙するクラウドとセフィロスを見た。
「―――アイツが外したの?」
「いや・・・この『霧』だ」
目に映る重苦しい白さは、全く同じだが。
霧はあきらかに温度差のある層が幾重にもなっているようだった。
その層が蠢く度に、『霧』自体が生き物のように感じられて仕方がない。
「この霧は“結界”だとクラウドが言ってたがよ・・・、
 コイツはこの街を護ってる結界なんだ。
 他者から街の姿を隠し、クラウドの水奏宮への侵入をなるたけ阻害し、そして」
「・・・今セフィロス(アイツ)に、加勢してるって・・・言うの?」
ユフィは口元を半開きにしたまま、固まってしまった。



ひょお・・・ひょおお・・・

ねっとりと霧がセフィロスの周りを何重にも取り巻いてゆく。
白く濁った視界の中で、やけにセフィロスの長刀が煌めき。
その不自然なコントラストにクラウドが舌打ちした。
「随分な年月を掛けての戦いだ。
 弾やナイフやらで邪魔はされたくないからな」
振りかざしていた刀をゆっくりと下ろして、セフィロスが嗤う。

「あいにく時間がかかりすぎて、俺はそんな悠長な気分にはなれないね」
「ふっ、一介の剣士にすぎなかったお前の成長を―――拝見するとしようか」

すうぅとセフィロスの瞳が暗くなる。
見惚れるほどの美しい弧を、刀が描いたとその時。

ガガガガガガガ!!

目にも止まらぬ速さでセフィロスが攻撃を繰り出し。
クラウドもその大振りな剣に似合わないほどの細かな動きで、 ことごとくそれをはねつけた。
あまつさえ極僅かな隙を見逃さずに、反撃に移る。
「おおおっ!」
纏わり付くような霧ごと、疾風を起こしセフィロスの刀を叩き落とすような 強烈な一撃だった。
しかしセフィロスはその力を受け流すように薙ぎ払い。
ぽーん、と大きく後方へ飛び退(すさ)る。
「クラウドォ!」
初めて不服そうに顔を歪めて。
セフィロスは今度は疾走した状態で刀を突き出してきた。
「させるかっ」
避けるどころか、クラウドも敢えてセフィロスへ向かって駆ける。
互いの武器が。
真っ向からぶつかり合い。
それこそ耳を塞ぎたくなるような甲高い金属音が木霊する。
刃(やいば)を交えたまま。
ぎりぎりと力が拮抗した。

「・・・成る程、無駄に足掻いたわけではないのだな」
小馬鹿にするように、片眉をぴくりと上げて。
セフィロスが囁く。
「必死だったさ、気が狂うくらいに」
瞬きもせず、眼前の澄ました男の顔を睨んだ。
「ふん、やはり―――“見つけた”のだな、お前は」
「!」

ぶあ、とセフィロスの長い髪が拡がった。
同時に腹に空気の塊がぶつかったような衝撃を受ける。
「がはっ!」
吐き気を催すほどの痛みにクラウドの身体が傾いだ時。
ヒュ!と耳元で何かが呻る。
数本の金糸と、幾滴かの血液が、舞った。

「ああ!」
思わずユフィが悲鳴を上げる。
クラウドの青い服が鎖骨から、裂かれ。
顎の左側に、赤い筋が刻まれた。
そして。

クラウドの胸元で。
光が、拡散した。


それは、白く濁った霧の空間にあってなお、鮮烈な光を放つ、小さな石。

細い銀の鎖が、クラウドの首元でばらばらに千切れ。
たよりなく投げ出された石は、煌々と宙へ舞う。

セフィロスがにたりと大きく唇を吊り上げ、腕を伸ばし、光の源であるその欠片を。

掴もうとした。



刹那の出来事が、まるでスローモーションのようにユフィ達の瞳に映り、 同時に光源の石が『月弓のしずく』であることを彼らは認識した。



あれを。
あの宝玉(いし)を。

セフィロスに、
渡してはダメだ―――――――――!!
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