「どうしよう?
 どうしよう?クラウド〜ッ」

どうしたらいいのかなんて、俺にだって解らない。
不謹慎ではあるけれど、このままでもいいかなって気持ちもある。
だけど涙目で、丸っこくなった頬を小さな両手で包み込んでいる彼女を 見てると、そんな自分の気持ちを優先させることも出来なくて。
ふわふわとあったかい頭を安心させるように撫でてやる。

「大丈夫。
 俺がきっとなんとかするから!」

・・・と大見得を切った。






全てはこの町にやってきた事から始まった。
ああ、誰が言い出したんだっけ?
そう、ケット・シーだ。
あいつが度重なる戦闘で疲弊していた俺たちにこう言ったんだ。
「どうでっしゃろ?
 二、三泊程度で温泉へ行きまひょか?」
生真面目なティファがこの非常時にどうかしらと・・・と困ったような顔をしたが シドとかバレットとかナナキとか・・・ああ、エアリスも大賛成で。
ユフィに至っては飛び上がって喜んだ。
ヴィンセントは我関せずって顔をしていたが、あいつが実はそういった年寄り臭いことが 好きなのは俺だって気付いてるくらいだし(実際歳喰ってるしな)。

ちょっと路を外れたところに良い宿場があると最新ナビゲーションを 覗きながらケット・シーが先導した。
女性陣は普段よりお喋りに花を咲かせて(あのティファもいつの間にかすっかり ノリノリだった)、かく言う俺もなんとなく淡い期待を抱きながら 浮き浮きしていたことは否めない。
・・・何を期待してるのかって野暮なことは訊かないように



なにやらくねくねした山道を登ったり降りたりして漸く俺たちは その宿場に到着した。
今時木材中心の、くたびれた宿。
それでも雰囲気があるとエアリスは喜んだし、心なしか ヴィンセントもそれが好みっぽかったし。
幸い(今から思えば本当に幸いだった)、俺たちしか客はいなかったので 二日ほどゆっくり腰を落ち着けることになったんだが・・・・・・



「じゃじゃーん!!」
「何ユフィ?それ?」
「伝家の宝刀・・・もとい、我がキサラギ家に伝わる温泉の素!!」
「温泉の素って・・・ここ温泉なんだから使わなくてもいいんじゃない?」
「ふっふっふっ。
 これはね、ちょっこっと入れるだけでお肌つやつや、シワもすっきり!!
 ウータイのおばちゃんたちも若返るわーって大好評の代物なんだから!!」
「へえ・・・。
 じゃ少し使ってみようか?ティファ」
「そうねえ。
 なんだか・・・試してみたくなるわよね〜」



「えー、隣は女性湯でっせ。
 当然覗きは禁止!」
「おめぇさ・・・、機械だから湯にはつからねーよな?」
「は?
 そ、そりゃそーですな!!」
「俺たちが風呂に入ってる間、何してるんだ?
 あっちでデスクワークか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「その沈黙、怪しいぜ」
「おう、ここは露天風呂だしな!」
「・・・・・・」
「・・・あんた達、何の話をしてるんだ?」
「駄目だぞ、ケット・シー。
 覗きは駄目だ」
「え?え?」
「・・・・・・そうおっしゃりますけど、皆さんはそれで良いんでっか??」
・・・う・・・っ
「お、おい!?」
「クラウドはんだって、気になりますやろ?
 ティファさんのおっきな胸や、エアリスはんのすべすべ綺麗な白いお肌とか・・・」
―――きさま・・・
「はい?」



ザウッ!ぶしゃあああ!!ドガガーン!!!



「ちょ、ちょっと何か飛んでくるわよ!?」
「え?え?」

ずどおぉーーーん!!

「あ、あ、あ〜〜〜」



ケット・シーの言葉に逆上した俺は思わずアルティマ・ウェポンを 振り回し、その太い腹にクリーンヒットさせた。
操縦席の生意気ロボット猫が無様にその場に転げ落ちて、不細工な白ネコ(?)が 天井を突き抜けて飛んでゆく。
そして女性更衣室でお喋りしていたエアリスたちに向けて突っ込んだのだ―――・・・

その時ユフィの持っていた温泉の素の原液がばしゃりとエアリスに降りかかり。
エ、エアリス!?
素っ頓狂なユフィの声に慌てて駆けつけた俺たちの見たモノは。

五歳くらいの幼児に退行してしまった、エアリスの姿だった。

まだ訳が解らないといった顔の彼女は、身体が小さくなってしまったおかげで 服の首周りがぶかぶかになって両肩が丸見えだった。
実際俺も目の前の事に対応できず、真っ白な小さな肩にドギマギしていると 自我を取り戻したティファがバスタオルで彼女をくるみ、抱き上げた (こういった突発的事態に女の子っていうのは強いらしい)。
そうして大きく目を剥いているユフィを睨んで
「それ、いったい何なのか説明してよ!?ユフィ」
と怒鳴りつける。
けれどユフィすら面食らっているようで口をぱくぱくさせているだけだった。



「まさか子供の姿に戻っちゃうなんて」

ティファに髪を結い直してもらいながらエアリスは鏡に映る自分の姿を見て、 ため息をついた。
「幸い、精神的・知能的変化はないみたいだけどねー」
赤いリボンを大きくチョウチョ結びにしてティファが柔らかく微笑む。
すぐ側のソファーで、クッションを抱え込みながらユフィは申し訳なさそうに項垂れている。
「ごめんねー、エアリス。
 まさかこんなことになるなんて・・・」
ちょこんとドレッサーの椅子から降りて、ピンクの子供服のスカートをひらひらさせて。
エアリスはユフィの手を取った。
「いいよぉ、気にしないで。
 ユフィのせいじゃないんだし」
そういって彼女は大きな碧色の瞳を、部屋の隅に立っている俺にも向けた。
ティファも彼女と同時に俺を睨め付けて、口を開く。
「そういえば野郎どもがよからぬ相談をしてたせいよねぇ」
「お、俺は止めようとして・・・(ナナキのやつ、ちくりやがって〜〜!!)」
「そうよね、クラウドのせいでもないし」
エアリスは今度は俺を見ながら小首を傾げた。
か、かわいい
知らず赤くなった俺の顔を見て、ユフィがにやにやしている。
ティファも子供好きなせいか、エアリスに抱きついて嬉しそうだ。
エアリスは迷った風に視線を泳がせていたが、
「クラウド、話があるんだけど」
と、小さな声で呟く。
「あ、それじゃ中庭なんてどう?
 結構綺麗だったし」
ティファの提案で、俺たちはとりあえず部屋を出た。



とんとん、とカラフルな石畳を跳ねる幼女姿の彼女が愛らしくて、俺はその小さな背中に 見惚れていた。
やがて、とん、と歩みを止めて、振り返るエアリス。
(え?)
―――彼女は瞳を潤ませて、俺を見つめている。

「どうしよう?
 どうしよう?クラウド〜ッ」
「エ、エア・・・?」
「わたし、わかるの、魔力が落ちてる。
 この身体じゃあ体力も少なすぎるわ。
 ・・・みんなの足を引っ張っちゃう」
ばっと座り込んで、丸い頬を両手で包み込んで。
赤いリボンを揺らして涙目の彼女は。
(う、うわ・・・まずい・・・、それは反則だよ・・・)
思わず目を覆って俺は天を仰いだ。
元々、年上のくせに仕草が愛らしかった彼女が、実際に俺なんかより遙かに 小さくなってみると、こんなにかわいいとは思わなかった。
普段の彼女に、今の幼い彼女がだぶって見えるようで・・・そりゃまずいよ・・・・・・

「わたし、わたしこのままじゃあ旅を続けられない・・・」
「エア・・・」
俺は屈み込んでひょい、と彼女を抱き上げた。
びっくりして目を丸くした彼女の、柔らかな頬にそっと触れる。
それからふわふわした小さな頭を撫でて。
「大丈夫。
 俺がきっとなんとかするから!」
そう、約束した。






その夜、男だけで一か所に集まって、額を付き合わせた。

「おい」
「ク、クラウドはん・・・目が怖いわあ〜・・・」
「・・・るさい
 お前この残りの温泉の素を持って帰って分析しろ!
 うまくいけばエアリスを元に戻す薬でも作れ
「簡単に言わはりますけど、そりゃむつかしい・・・」

どご

うだうだ言い訳するケット・シーを蹴り上げて、俺は青筋立てて説明してやる。
「よっっく聞けよ。
 身体が小さくなったおかげで彼女はマジックポイントも大幅に減ったんだ。
 これからセフィロスを追う上で戦闘も厳しくなるってのに、治癒能力の高い彼女がどうしても必要だろう?ああ?
(・・・じと目のクラウドは怖えぇ・・・)
「なんか言ったか?シド」
「いや!!何にも!!
 そ、それよりも俺たちはどうする?」
「エアリスと一緒にウータイへ行く。
 幸いそれほど遠くないし、あの奇妙な温泉の素について詳しく解るかもしれないしな!」



君の為なら仲間でも何でもこき使ってやるさ!
・・・俺は頑張るよっ、エアリス!!
[Next] [FF7 Index]