「マジかよ・・・」

さすがの俺も絶望しかける。
単独でこのアルテマウェポンと戦うのはどう見ても分が悪かった。
回復役、そして守備強化の役が要る。
腕の中のエアリスにそれは期待できないし、なによりも時間がない。
俺は愛剣のアルテマウェポンを見遣る。
目の前の巨大な敵と同じ名の、武器。
――――もともとこいつの持ち物だったんだよなあ。
我知らず溜め息が零れた。
記憶を失って、事情を知らないエアリスが不安そうに俺を見上げる。
微かに潤む碧の瞳が、ものすごく、綺麗だ。
俺の・・・俺だけの宝石。

「・・・よし!!」

俺はエアリスをそっと下ろして、ぶん、と剣を一振りさせた。
「いいか、エアリス。
 よっく聞くんだぞ」
「え・・・?」
「あと数分しか時間が残されてない。
 俺がアイツに斬りかかると同時に走れ。
 あの、泉が見えるよな?
 あそこまで真っ直ぐに走るんだ、いいな!」
「で、でも・・・」
俺の危惧が、彼女にも伝わっているのか、エアリスは嫌だというように首を振った。
俺は空いた手で、ぽん、と彼女の頭を撫でて。
特上の微笑みを浮かべた。
「思い出せ、みんながのために命を投げ出したことを。
 (↑まだ死んでないって!)
 ここで成功しなくちゃみんな無駄死にじゃないか!!
 (↑死んでないっっ)」

エアリスはきゅっと唇を噛み締めて、零れそうに目を見開いて。
やがて大きく頷いた。
俺も頷き返して、身体の向きを変え、剣を構える。

「・・・いくぞっ!!」

(俺ってば、かっこいい〜〜!)←心の声。

キイイイッと、刀身が震えた。
ざうん、と旋風と共にアルテマウェポンに剣を振り上げる。
目の端で、エアリスが懸命に走る姿が見えた。
鈍い音と同時に、敵の装甲に剣が弾かれ。
俺は空中で体勢を整えて、降り立った。
間髪入れずに斬り込もうとした時。
アルテマウェポンの巨体が、一瞬硬直した。
「やばい!」
アルテマビームを放つつもりだ。
HPがごまんとある癖に、 いきなり小さな俺たちに必殺攻撃とは。
なんてせっかちなヤツだ・・・!!

俺は慌ててヤツのビーム発射を阻止しようとした。
懸命に先を走る、エアリスまでビームの破壊力に巻き込まれてしまうからだ。
だが。

びゅわわ〜〜〜〜ん!!

目も眩むような光線が、時遅く襲いかかった。
エアリス!!
放っておけば彼女がまともにビームを喰らうと判断した俺は、剣を盾にして光線の先へ躍り込んだ。
辛うじて方向が逸れたビームだが、それでも威力は衰えない。
ガガガガガッ
拡散したビームが周りの固い地層を事も無げに粉砕して。
ぐらぐらと辺りが揺れた。
「きゃあああああ!」
立っていられないほどの衝撃が、エアリスにも襲いかかり。
悲鳴と共に彼女は、がらがらと転げ落ちる岩と混じって、大地から跳ねとばされる。
俺はといえば、剣が致命傷を食い止めたものの、 満身創痍で岩壁に叩き付けらてれた。

・・・痛い。
はっきりいって激痛だ。
そこそこレベルがあったから、息をしているようなものだった。
しかしそれよりも。
爆風で姿を見失ったエアリスが気に掛かる。
あれだけの衝撃に、小さな彼女は耐えられたのか?
霞む目を凝らしても、彼女の可憐な姿を捉えることが出来ない。
そして。

ピピピッ

腕時計のアラームが、新月のリミットを告げた。
ケット・シーに寄れば新月―――目に見えない月が、 最もライフストリームに影響を与えると計算された・・・時刻。
間に合ったのか、間に合わなかったのか。
無事なのか、それとも。

俺の中で、不安と焦りと怒りが同時に巻き起こった。
その怒濤のような感情のうねりは、眼前のアルテマウェポンへと向けられる。

―――お前のせいだ。

ああ、ああ、そうだとも!!


むかつく、むかつくぞ。

この野郎っ!!



理性を吹き飛ばした脳回路が、単純に怒りエネルギーをアルテマウェポンへの攻撃力へと 変換させた。

すなわち。
リミットゲージがマックスになった。

冷静に考えれば、エアリスの無事を確認する方向へ使うべきだったのだが。
俺は、我を忘れていた。

怒りは身体の痛みを凌駕して。
俺はゆらりと立ち上がる。
俺の血にまみれた鞘を、ぐっと握り締めて。
息を細く吐き出し。
敵と同じ名の、剣を振り上げた。



「超究武神覇斬スペシャル!!」

(スペシャル・・・?)




ガウン!ガウン!×15!!!

(30回斬ってる・・・?)




気が付けば、アルテマウェポンはボロボロになって、よたよたと沈んでゆく。
さすが俺の究極技。
ところがここでうっかり、俺は重要な事を忘れていた。

こいつは。
倒されると、倒したヤツに向けて。
最後っ屁の如く。
シャドウフレアをお見舞いしてくれるのだ。



・・・ブワワアアッ


避けることは叶わず。
暗い炎に身体が包まれる寸前。



眩い光が、辺りを覆った――――――
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