真っ白な羽毛が。
ひらひらと、舞う。

まるで真昼のような輝きの中を、天使が・・・・・・舞う。



「な・・・なんや?」

「あったけぇー・・・」

「まぶしーよぉぉ!!」

「おお〜・・・綺麗だな」

「わ、天使だ!」

「む!?これは・・・」

「『大いなる福音』―――  エアリスだわ・・・!!




温かな光が、全身を浄化してゆく。
たちまち傷は消え、疲弊した身体は癒え、精神が高揚し。

・・・俺は知っている。
この、優しい力を。

「エア・・・・」

あれ程の激痛は、跡形もなく消えていた。
降りそそぐ光と羽毛を全身に浴びながら。
俺はゆっくりと歩を進めた。
光を乱反射しながら、小さく波打つ水面。
目を細めて、泉の中心に佇むたおやかなシルエットを見る。

ぱしゃ

そのまま足を踏み入れて、俺は大きく水音を立てた。
漸くはっとしたように、そのシルエットがぴくりと動く。
次第に、光のカーテンは弱まり。
徐々に周りの岩石や暗闇が、元通りの姿を現し始め。
ついに水の煌めきだけが、残った。

「エアリス・・・・?」

リボンがほどけて、長い髪が彼女の背の殆どを覆っていた。
ぺたりと濡れそぼった服は、何故かぼろぼろで。
白い腕や足は殆ど露わで。
胸元は白いシャツが辛うじて覆っていたものの、 やはり濡れてぴたりと円い曲線を強調していた。
ふと視線を下げれば、ホックの外れたミニスカートをずり落ちないように 押さえている。

かーーーーーーっ!! (←鼻血でそう)

思考するより先に、血液が勝手に沸騰して。
そのたぎり立った血はあっという間に脳内を巡回してしまった。
顔面が熱くて、ついでに身体の中心も熱くて。
がんがんがんがん茹でられて・・・倒れそうだ。

「ねえ?いつまでそうやって突っ立てるの?」
小首を傾げて、不思議そうに彼女が訊ねる。
その瞬間、やっと俺は『考える』ということを思い出した。

「え・・・あ・・・あ、

 ああ!?エアリス!!!


「やあねえ、それ以外の誰だって言うのよ?」


「ち、ち、違う!!

 そうじゃなっくて!

 も、も、元通りに

 大きくなってるのかっ!?」



あまりの俺の声の大きさに、エアリスは思わず顔を顰めた。
ごめん、と言いたかったがあいにく俺はそれどころじゃなかった。
夢にまで見た、それこそ命を賭して望んだ、元の姿のエアリスが あられもない格好で泉の中心に居て、俺に向かって微笑んでくれている!!

「うん・・・みんなの、クラウドのおかげだよ―――」

ばしゃばしゃばしゃ
俺は夢中で水を乱暴に掻き分け、彼女の元へ寄った。
どろどろに汚れた服が水をたっぷり吸って、重くて気持ち悪くても平気だった。
水の抵抗が、思わず足元をよろめかせたけれども。
それにも気付かずに、まるでぶつかるように彼女を抱き竦める。

エアリス―――!!

ぎゅっと腕の中に閉じこめる感覚が。
鼻をくすぐる彼女の匂いが。
彼女の、俺の背中に縋る指先が。
全て。
彼女が、彼女に戻ったことを知らしめた。

「クラウド、クラウド、心配かけてごめんね」
「ダメかと思った、やられたか思った、俺は・・・俺は!!」
そのまま彼女の顔を引き寄せて。
濡れて張りついた髪を梳き。
唇を近づけようとして、はっと気付く。
「あんた・・・記憶は・・・?」
エアリスは一瞬瞳をくりっとさせて。
そして照れたように笑った。
「実はアルテマウェポンに吹き飛ばされて、そのまま泉に放り込まれたの。
 その時頭打っちゃって」
「え?怪我はっ!?」
慌てて額を点検しだした俺の指を、エアリスはそっと握る。
「・・・大丈夫。
 全部思い出したから」
ふふ、と小さく笑いながら。
エアリスはそっと掠めるように俺の頬にキスを落とす。

「ただいま、クラウド」
「・・・ああ」

強烈に嬉しくなった俺は、そのまま彼女を抱き込んで。
深く深く。
唇を重ねた。



「クラウドー、エアリスー!!」
ティファがぶんぶんと手を振りながら駆けてくる。
他のヤツらも元気良く集まってきた。
『大いなる福音』が発動したことで、みな彼女と身体と記憶が 元に戻ったことに気付いたらしい。
俺とエアリスは、泉から上がって濡れ鼠のまま彼らの歓迎を受け・・・



まずいわよ!!その格好!
「え?ティファ、何が?」
「子供服だったから肌が殆ど見えてるし、
 ずぶ濡れだから身体の線が丸わかりじゃない!!」
「そういわれれば・・」
ヴィンセント! マント寄こしなさいっ!!
「・・・・む?何故だ?」
うっさいわね!
「むむ・・・」
「ほら、エアリス!

 赤くてセンス悪い

 けどこれを羽織って!!」
「あ、ありがとう、ティファ・・・」



・・・歓迎を受けた。









全くとんだ災難だったねー
なんだか久しぶりにまともな宿に到着して。
ユフィははしゃいでいた。
他のヤツらも、エアリスが無事元に戻り、俺の苛々が激減したことに 安堵したのか、いつもより締まりのない顔をしている。
「さあて、また本来の旅の目的に戻りましたな」
「よっしゃああ!打倒セフィロスだ!!」
「みんな、迷惑かけてごめんなさい」
「何言ってんだよ、全然そんなことオイラなかったよ」
「・・・むしろ迷惑だったのはクラウドだ・・・」

どげし(-_-メ

「・・・何をする、クラウド・・・・・・」
「あ、悪いなヴィンセント。
 俺の長い足がつい絡まってなあああ〜」

たく、お前にだけは言われたくないぜ!

バーサク野郎!!ふん!!



「ねえ、ねえ」
ユフィが大声でティファとエアリスに話し掛ける。
「これ、持ってきたんだけど使わない?」
銀色の筒を振り振りする。
「なあに?」
「は!まさかそれ・・・」
「えへへ、ウータイの新製品の入浴剤なんだけど、
 これがまたお肌つるつる毛穴まで綺麗にするっていう・・・」



瞬く間にその場からみなが居なくなったのは言うまでもない。
[FF7 Index]