新月まで、あと半日。



うう・・・限界よ・・・

前につんのめりそうになりながら、ユフィがぼそりと呟く。
彼女だけじゃない。
他の仲間達ももうボロボロだ。

磁場がどうとかで、バギーや飛行船の類は一切使えず。
チョコボですら余程訓練されたヤツでなければ渡れない。
当然時間もなく、そんな優秀なチョコボを手に入れることも出来なかったので、 俺たちは徒歩で、この巨大な山に登ったのだ。
一週間もかけて。
とにかく険しいわ、強風だわ、気温差が激しいわ、急勾配だわ・・・後を振り返るだけでも 胃の中のモノがひっくり返りそうだ。
それでも、誰ひとり「引き返そう」とは言わなかった。
案外良い奴らだ。
俺は見直したぞ。

「エアリス、大丈夫か?」
俺は振り返り、ナナキの背にしがみつき、顔色が真っ青なエアリスを見遣った。
彼女は健気にも俺を見てにっこりと微笑んだ。
ああ、なんて可憐なんだ!
彼女はこの山に踏み込んで以来、ごめんねとも、止めようとも、弁解がましいことは口にせず。
ただ、黙って俺たちと共に来た。
それだけ、俺たちを信頼し、俺たちを解っている。

俺は今ほど仲間達との熱い絆に感動したことはない
身体は使い古された雑巾のようだが、俺の心には爽やかな風が吹いている。
さあ。
時間がない。
もう一頑張りだ、諸君。
死ぬ気でエアリスを源泉に連れてゆくんだ!!(←自己陶酔)



「これがエアリスじゃなくてクラウドの災難なら・・・ぜってーつきあわねえっ」
「うむ。
 男なら独りでなんとかするだろう」
「そんなこと言わないで。
 あれでも頼りになるんだから」
「まあ、そこが複雑だよな・・・」
「オイラ・・・エアリスを負ぶってるだけで幸せだよ」
「これが終わったらクラウドからマテリアせしめてやるっ!」
「うまくいかんかったら、ボク殺される・・・」
「(・・・・・・どう言えばいいのかしら?)」



ごおお・・・ん

巨大なクレバスから、吹き上げる風。
遂に来た。
この、クレバスの奥に、目指す源泉が在るはずだ。

「ケット・シー、ここで間違いないな?」
「はい、そうです。
 でも気をつけないと!
 何人もの調査員がこの奥へ進んで
 そして行方不明なんですわ―――」
「うひー!
 でもほんと不気味だ・・・」
「みんな・・・、いいの?」
よろりとナナキの背から下りて、エアリスは瞳を潤ませながら周りを見渡した。
「ったりまえ!!」
ティファが、器用に片目を瞑り、親指をぐっと立てる。
シドがにやにや笑いながら、エアリスの頭を撫でた。

みんな、エアリスと俺の為にありがとう!!

エアリスが、頬を染め、やや視線を落としながら。
ぽつりぽつり、と皆に話し掛ける。
「わたし、みんなと出逢えてよかった。
 記憶が在っても無くても、この気持ちだけは変わらない・・・!!」
もう此処まででいいから、エアリスはそう叫びだしたいに違いないけれど。
本当によく解りすぎてるよ・・・君は。
だから俺も全身全霊を懸けて。
君を元通りにしてみせる!!

さあ!行くぞみんなっ!!
俺は勢いよく走り出した。
あと一息、あと一息なんだ。
「「へいへい・・・」」
後方でオヤジどもの気のない声が聞こえたが、そんなことは気にならなかった。



入り口は巨大なひび割れのように見えたが、一旦奥へ踏み込むと そこは意外に広い空間だった。
鍾乳石のような岩石の柱が、数え切れないくらいそびえている。
それでいて、人間が通れる足場は狭く、俺たちはエアリスを真ん中にして長く伸びた 隊列で進む。
「ああ、これってなんだかお化け屋敷の感覚〜〜〜」
ユフィが首を竦めながら怖々と呟いた。
と、その時。
ゆらん・・・ゆらん・・・
前方からぽつりと小さな灯りが左右に動きながら近づいてくる。
こ、これは、見覚えがある。
思い出したくはないが、確かにある―――

「マスタートンベリ!!」

ひっくり返った声でユフィが叫んだ。
トンベリ・・・こいつはトドメを刺したモンスターの数に比例したダメージを与えてくる。
はっきり言って俺なんか包丁一刺しで昇天だ。

「に、逃げよう・・・!」
迷わず判断した俺の肩をがしっとヴィンセントが掴んだ。
「こういうクライマックスの戦闘は、逃走不可能が御約束だ」
「そ、そうか・・・そうだよな・・・」

だああああっ!!
そういう嫌な御約束を、涼しい顔して言うなあああっ!!!


フェニックスの尾の残りを思い浮かべながら、俺は渋々と戦闘態勢に入ろうとした。
するとケット・シーがぐい、と巨大な身体でトンベリの前に立ちはだかった!
「ケ、ケット・シー!?」
エアリスが心配そうに叫ぶ。
ケット・シーはゆっくり振り返りながら、笑う。
「ここは、ボクが。
 皆さんは先へ進んでください」
ティファが小さく頭(かぶり)を振る。
「だけどケット・シー、まともに相手をしたら手強すぎる相手よ!?」
「ここで全員で敵を相手にしてたら、新月までに目的地へ辿り着けまへん!
 とにかく今はエアリスはんを・・・!!」

そう言い残して、ケット・シーはトンベリへ向かって突進してゆく。
俺たちは彼の遺志(←まだ死んでまへんっ!)を無駄にしない為にも、先へ進む。

ケット・シー、これまで無能だ、阿呆だ、そんな風に詰って済まなかった。
お前の尊い犠牲は忘れない・・・っ!



(どうせこの身体は機械やし、壊れてもかまへん!
 むしろこの作戦が失敗した時のクラウドはんの方がよっぽどこわいおます。
 だったら早いトコ点数稼いで脱落できる、これは唯一のチャンスでおまっ!
 エアリスはん、幸運を祈ります〜〜〜!!)



「うおほおお〜〜ほ〜〜」



背後で間の抜けたケット・シーの雄叫びを聞きながら、俺たちは走り続けた。
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