これほど高い樹の上から眺める夕陽はとても綺麗だった。
俺とエアリスは長いことここで風に吹かれていたが、 やはり身体はオコサマなんだな。
彼女はいつの間にかすやすや寝息を立てて、俺の腕の中だ。

「・・・柔らかいなあ」
二の腕のまわりとか、丸い頬とか。
悪戯心から指でぷにぷに突くと、その弾力性が堪らない。

(・・・変態だ・・・
 それともロリコンってヤツか?
 ああ、でもあのエアリスがこうしてすっぽり腕の中に入って、しかも天使のような寝顔を晒してるし!
 ここで平静になれなんてなことカミサマでも言わないよなあ?
 そうだ、だからドキドキしたり、ちょこっと額にキスしたり、 なんてことはやましいなんて思っちゃ失礼だよなあ?)

―――どう見ても支離滅裂で、馬鹿馬鹿しいとは思うが、今の俺はそれだけ 冷静さを失っている・・・から、大目に見てやってくれ。
誰もいるはずがないのに俺は幾度かきょろきょろと辺りを見回して。
それから眠り続けるエアリスの顔を見つめる。
そうっと彼女の上体を抱き直して。
その桜色の唇に、俺のそれを近づけて・・・・・・

「クラウドはーん!!」

辺り一面の枝葉がびりびりと震えるくらいの大音量が響き渡って エアリスがびくんと肩を動かし、目蓋を開いた。
(なんなんだよ、御約束みたいに邪魔しやがって!!)
苛々しながら声がした方を見遣る。
俺たちの居る樹の根元に、疲れ果てたようなユフィが立っていた。
「・・・探したよぉ、クラウド」
そしてユフィの手にしている通信機から、先程の嫌味な声がまた響く。
「クラウドはん、新しい情報ゲットです!
 とにかく皆さんで集まってから、話し合いまひょ!!」


その情報って朗報なのか?
まさか俺たちを落ち込ませたりしないだろうな?←懐疑的
それよりもこれ以上俺を怒らせないでくれよ、
なあ、ケット・シー・・・・・・←沸点寸前

「えっと、あの、クラウドさん・・・下りましょう」
「あ、ああ・・・(下りたくねえよ!!)」
「どうかしたんですか?」
「(にっこり笑って)いや、なんでもないさ」

寝起きの、ぼんやりしたエアリスの表情が、可愛いと思いつつ。
それを励みに俺は彼女を抱えて、地上に降り立った。



「まあ、まあ、まあ!!」
かめ道楽のおばばは、太い腕を大きく広げてティファ達を労(ねぎら)った。
「今はゾンビのシーズンだからね、大変だったろう」
「そんなシーズンがあったのおおおお?」
恨みがましい目を向けるユフィに、おばばは豪快に笑って見せた。
「そうなんだよ、だからこの時季はあの温泉の素は品薄でねえ。
 あんた達が余分に手に入れてくれて大助かりさ!」

すげー商魂たくましいオバチャンだ、とシドが呟いたのが聞こえたのか。
おばばはぶん、とヤツの胸をはたいて、また笑った。
シドはげぼっと含んでいた酒を吐き出して、服を濡らしてしまう。
きったねーな、ドジシドめ。←心の声

「・・・ところで、ケット・シーの情報って何だ?」
不機嫌モード絶好調の俺は、じろりとユフィやバレットを睨んだ。
あ、そうそう!と慌てたようにユフィが『ウータイ唯一のカメラ通信機なんだよー』と 説明しながらモニターのスイッチを入れる。
ヴィーンと走査線が奔ったかと思うと
「待ってました!!
 もう喋りたくて喋りたくてかなわんかったんですよっ!!」


五月蠅い

ああ、そうか、ヤツの正体は不明だったな、とか思いながら。
そんなに大きな声を出さなくてもいいんじゃないかとか、わざわざモニター使わなくても いいんじゃないか、とかぶつぶつと呟きながら。
取りあえず俺は相づちを打ってやる。
「・・・有意義な発見があったようだな。
 さっさと報告しろ」

俺の声音から、何かしらを感じたのだろう。
ケット・シーは手の平を返したように蚊の鳴くような声で応答した。
え、えーと・・・、実は・・・
「聞こえない」
「クラウド、そんなに苛めちゃダメよ」
すかさずフォローのティファに立ち直ったのか、ケット・シーは漸く普通に 喋り始めた。
「ユフィはんの温泉の素はどう分析してもこれといった事がわからんかったんやけど、さっき皆さんが湧き水を汲んできた場所を聞いてピーンときましたんや」
「場所?」
俺の傍でエアリスが、こくんと唾を飲み込んだ。
小さな手が俺の服の裾を無意識に掴んでいる。
「そうです。
 あそこの湧き水は、実はずうっと離れた地中に源泉があるんですわ」
「へー、そうなんだ?
 でもどうして知ってるの?」
「“内輪”では有名なんですわ。
 その源泉は、ライフストリームにごっつい関係がありましてな」
「ライフストリーム・・・か?」
「詳しいことはまだわかってまへん。
 ただその源泉は、ライフストリームの動きに関連があるようで、その成分を常に微妙に変化させるんです」

話が難しくて、よく呑み込めない。
眉間に皺を寄せて考え込んでいると、素早くおばばがユフィの肩を掴んだ。
「ね、ユフィちゃん!!」
「な、何?」
「あんた、例の温泉の素を入れてた筒は持ってるかい!?」
「・・・多分部屋に置いてるけど」
「すぐ持っといで!!
 早く!!」

小さな頃から世話になったという、おばばに逆らえるはずもなく、 ユフィは転がるように店を出ていった。
「・・・どういうことだ?」
俺は訳が解らなくて、おばばに訊ねる。
おばばは俺の隣で不安げに瞳を揺らせているエアリスの頭をそっと撫でながら、 こう言った。
「製造番号だよ」
「番号?」
「ああ、それを見れば大体湧き水を汲んだ日付が判る」
「日付、ですか?」
「・・・以前から気が付いてたんだが、あの湧き水は新月の時にくみ上げると多少色が違うんだよ」
「色・・・ってただの水だから無色透明じゃねえか」
「いや、長年携わってきたからね。
 ほんの僅かの変化もわかっちまうのさ」
「じゃ、もしそれが新月だったらどう影響してるの?」
「そこまではわかんないけどねえ。
 何か、引っ掛かって、さ」

「それですよ!!」

五月蠅いっ

だがケット・シーは興奮したように叫び続ける。
「月の満ち欠けと、ライフストリームの研究は今注目されてる分野です!
 ク、ク、クラウドはん!
 もう少し調べてみます、待ってくれはりませんか!?」

俺はエアリスを見下ろした。
彼女はやや上気した顔で、戸惑っているようだ。
するとその肩へ、黒い手袋をした手がぽんと置かれた。
「・・・焦ることはない。
 必ずうまくいく。
 待ってやってくれ、エアリス」
いつの間にかヴィンセントのが、エアリスを励ましている。
エアリスはゆっくりと頷くと、ヴィンセントに微笑いかけた。

むか

・・・俺はざらついた気分を抑えながら、ケット・シーに伝える。
「まかせる。
 死ぬ気で急いでくれ。
 湧き水のサンプルはナナキに持っていかせる」
「え?
 オイラ!?」
いきなり任務を押し付けられて、ナナキが動揺しているがそれを一睨みで 大人しくさせて、俺はエアリスの腕を掴んでヴィンセントから遠のけた。
ティファが仕方ないわね、と呆れたように俺を見ているが 知ったことか!
彼女は俺の・・・・・・

俺の・・・
俺の・・・照れているらしい(笑)



そして、再びかめ道楽に転がり込んだユフィが握っていた筒の 製造番号は。

新月に採取されたことを示していた。
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