二台ともバギーがおシャカになってしまったので 俺たちはとぼとぼと徒歩でウータイに向かった。
まあ、一日も歩けば充分に着く距離だったので、運がいいと言えば 運がいいのだろう。

しかし。

やっと身体は解凍されたものの、俺の心の中はブリザードが吹き荒れていた。
先頭を歩く、俺の背中にビシビシと皆の憐れみの視線が突き刺さる。
頼む。
俺はこうして動くだけが精一杯の、ダメージを受けてるんだ。
せめてしらんフリしてくれよ・・・、あんた達のそのもの言いたげな視線が ますます俺を凹ませるんだって・・・・・・

記憶を無くして、混乱していたエアリスは疲れたのか、 ナナキの背に揺られてうとうとしていた。
さらさらと褐色の髪が、時々ナナキの耳元をくすぐって、ナナキが 鼻をむずむずさせる。
・・・うらやましい。
今の彼女にあれだけ密着してるナナキの、嬉しそうな様子は はっきりいってむかつく

「ク、クラウド」
「なんだ?」
「あの、気持ちはわかるけれど、その表情どうにかならないかしら?」
「は?」
「不愉快そうっていうより・・・どす黒いとぐろを巻いてるみたいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまないな」

ティファが別にわたしは構わないんだけど、と笑った。
そういえばユフィがびくびくしながら俺を見てる。
無理矢理微笑んでやろうかと思ったが、想像以上に頬の筋肉が 強ばって叶わなかった。

「打撲による一時的な記憶喪失だ。
 時間が経てば回復する。
 心配するな」
背後で、ヴィンセントが俺に声を掛けた。
ああ、そうだな。
多分そうだろうけどお前に言われたくないぜ、バーサク野郎!!
俺がエアリスの傍に居てやれば良かったんだ。
ついつい先頭に立つ癖があるからなあ・・・・・・

再び俺が項垂れてると、ユフィが高い声を上げた。
「あ!やっと着いたよ!!ウータイに!」





「なんだって?」
かめ道楽のおばばが驚いてエアリスを見た。
「あたしゃ長年この温泉の素を取り扱ってるけど、若返るなんてこたぁ初めて聞いたよ」
「あたしだって信じられないけど、目の前で起こったんだから本当なんだってば!
 おばば、この素の原料教えてくれる?」

おばばは困ったような顔をしたが、小さなエアリスが不安そうに自分を見ていることに 気付いて、同情したのだろう。
そっと俺たちに耳打ちした。
「極秘、だからね――――――」



岩壁に彫られた、ダチャオ像を見上げて、ユフィは溜息をついた。
「またここに来るなんてね・・・」
「まさかこの洞窟の奥の湧き水を精製したものだったなんて」
「おい、ケット・シーから連絡はないのか?」
「ないな。
 苦戦してるんだろ・・・(う、今クラウドがすげえ目をして睨んだぜ、こええ!)」
「とにかく、その湧き水のサンプルをケット・シーに送って分析させましょう」
「ああ、そうだな」
「クラウド」
そっとティファが俺の腕を引いて囁く。
「湧き水はわたし達だけで取りに行くわ。
 あなたはエアリスと残ってて」
「え?」
「記憶がない上に、自分は本当は22歳だなんて聞かされて相当混乱してるわ。
 気分転換させてあげないと」
「・・・ああ、そうするよ」

こんな時のティファの気配りには全く頭が下がる。
俺は苛立ってばかりで、エアリスを思いやってやれなかった。
一番大変なのは彼女なのに。
「ありがとう、ティファ」
・・・ティファは笑って片目を閉じて見せた。



どこか行きたいところがあるかと訊いた時、 エアリスは大きな碧の瞳をぱちぱちさせて俺を見つめた。
思い返せば、記憶を失ってからというもの、いや、彼女の身体が小さくなった時から、 ティファとかユフィが彼女の傍にいたっけ。
ティファなんて、エアリスの髪型を変えたり、ひらひらした服を着させたり。
猫可愛がりしてたし。
・・・あれ、何かひっかかるな?
まあ、いいか。
それよりも、久しぶりにふたりっきりなんだ、と思うとちょっとドキドキするなー。

「あの・・・、クラウドさん」
「へ?」

『さん』付けで呼ばれて面食らった俺は、思いきり間抜けな声を出していた。
そんな、堅苦しい態度で。
緊張した声で。
・・・なんだか、淋しい。

「クラウドさん、木登り得意ですか?」
「え?ああ、出来るけど・・・」
途端にきらきらとエアリスの瞳が輝いた。
「そうですか!
 じゃお願いできますか?」
「は?」
「あれ。
 あれに登ってみたいんです―――!」

ついとエアリスが指差した先には、森の中でもひときわ大きくて立派な樹が そびえ立っていた。
「・・・(ちょっとびっくり)あれに、登りたいのか?」
「はい!
 なんだかあの樹の葉擦れの音が、とても心地良いんです。
 もっともっと、傍に寄って聴いてみたいんです。
 理由は解らないんですけど・・・
 心が逸って仕方なくて―――」
うっとりと目蓋を閉じて、頬を紅潮させて。
とても君らしいと、俺も思った。
そういえば、君が古代種であることはまだ話してなかったっけ。
君が、この大地の風や、光や、音にとても敏感なのは・・・多分そのせいだろうけど。
「あんたらしいな。
 わかった、まかせておけ」
姿が幼くなっても、エアリスはエアリスなんだと感じて。
俺は嬉しくなった。



さわさわと吹き抜ける、水分をあまり含まない風。
高地特有の、刺すような陽射し。
風に踊らされるよな木陰は思いの外心地よくて。
太い枝にふたりで腰掛けながら、小さく覗くウータイを見下ろしていた。
今日は水玉模様のリボンをふわふわさせて、エアリスは大きく息を吸い込む。

「ありがとうございます。
 本当に素敵だわ!
 こんなに優しい『声』は、久しぶり・・・」
「声?」
「『声』だと思うんですけど。
 時々頭の中で聞こえるんです。
 言葉というより、『音』が、囁いてくるんです。
 ここの『声』はとても優しい。
 まるで慰めてくれてるみたい―――」
幹に耳を押し付けて、うっとりと瞳を閉じる。

「不安・・・なのか?」
驚いたように、エアリスは俺を見た。
「だってあんたを『慰めて』くれてるんだろ?この樹」
「・・・・・・」
エアリスはちょっと困ったような顔をして、曖昧に笑う。
それがなんだか堪らなくて、俺は彼女の頬をそっと撫でた。
「俺が居ても、不安なんだよな?」
「クラウドさん?」
「俺のこと、そんな風に呼ばなかったのに」

なあ?
どうしてなんだろう?
君が君の名前を忘れても。
仲間達のことを忘れても。
セトラであることを忘れても。

俺のことだけは忘れないで欲しかった。
『俺』だけは、覚えていて欲しかった。



じゃないと、俺が。
――――――耐えられない。



片腕だけで抱きしめても、余ってしまう小さな君を。
両腕に包み込んで抱きしめた。
力を込めれば、壊れそうな細い子供を。
離したくなくて、その華奢な肩に顔を埋めた。

柔らかくてふにゃりとした腕を君は一生懸命伸ばして、俺の背中に回す。
遠慮がちに、それでも優しく。

こんな時にも、君に気を遣わせてしまう自分が情け無くて。
それでも抱きしめ返してくれることが嬉しくて。
そのままの姿勢で居た。
「クラウドさ・・・、クラウ・・・ド」



『声』なんか邪魔だ。
俺のことだけを、考えて。










―――その頃のティファ達。

うきゃあああ!!
 こんなのが出るなんて聞いてないよお〜〜(泣)
「なんだよ、こいつら!?
 もそもそ歩いて鈍くさいのに気持ちわりいっ!!」
「・・・ゾンビだな。
 しかも雑魚だ、問題はない」
「問題ないじゃないわよ!!
 こんなに数がいちゃ、どうしたらいいの?」
「お前のパンチなら素手でも頭がぶっ飛ぶ。
 簡単だ。
 皆も頭を狙え」
「わたしは先ずあなたをぶっ飛ばしたいわ」
「・・・ヴィンセントが解説してるって事は、またゲーム世界が違うんじゃないのかなあ?」
「そんなこたぁどうでもいい、ナナキ、おめえ噛んでこい」
「イヤだ、臭そう」
「解説垂れてるヴィンセント殿は、やらねーのか?」
「雑魚に弾丸を消費するのはやぶさかだ」
つべこべ言わずにぶっ飛ばしなさいよっ!
 この役立たずっっ!!




「「「「ティファ・・・」」」」
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