―後編―

第一発見者・隣の部屋の男


う、うわわっ!
ちょ、ちょっと急に人の後ろに立つのは止めてくださいよ!!

あ・・・、あなたは確か夢幻さん・・・・・・・・
こ、こんな夜中にどうしたんですか?
は?
そ、そういえば、こんな荷物持ってる僕の方が怪しいですかね ・・・はっ、はっは・・・・・



観念しますよ、そんな眼で見ないでください。
そう。そう!そうですよ!!!

幽霊騒ぎの犯人は僕ですっ!
ああ〜っ、悪気は全くなかったんです。
ただ彼女があんな無惨に殺されたっていうのに日が経つにつれて 誰もが彼女の存在を忘れてゆくのが 辛かったんです・・・

え?この服ですか?
彼女の部屋から失敬したんですよ。
良いじゃないですか。
証拠の品じゃあるまいし。
どうせ死体も遺品も引き取り手がなくて、処分するのみだったんでしょう?
あれ?
そういえば大家さんが全部やったんだっけなあ。
あの婆さんが、そこまで面倒見が良かったなんて意外だ・・・

あ、僕のこと馬鹿にしてますね?
こっそり主のいない部屋に忍び込んで、主のいない服を盗んで。
挙げ句、彼女の幽霊のフリをした。

だけどね!
僕ほど彼女を想ってる奴はいませんよ!
そうです、あの日、彼女が殺された日、
僕は壁にもたれてうたた寝をしてしまった。
彼女が誰かに殺されたっていうのに何も気付かずに、眠っていた。
はは、物音に気付いたなんて嘘ですよ!
彼女結構宵っ張りでさ、何時頃に寝るかなんて僕はよく知ってた。
うたた寝から目が覚めて、まだ彼女が眠る時間じゃないことに安心して。
また聞き耳を立ててたら・・・
何にも。何にも気配がしないんだ。
彼女は確かに部屋にいたはずだった。

胸騒ぎがした。急いで彼女の部屋の前まで行った。扉がちゃんと閉まってなかった。 ゆっくりドアを開いた。強烈な血の臭いがした。僕の彼女が血塗れで倒れていた。 まるで紙のように肌が白くなっていた。どんよりと瞳孔が開ききっていた。 僕は何も考えられなくなった。そのまま彼女の箪笥から幾らか彼女の持ち物を 抜き出した。だって彼女は僕の物だけどちゃんとした約束をしてなかったから 心配だったんだ。不安だったんだ。彼女が僕の物だった証拠が手元に 欲しかったんだ―――――・・・






あの女の子が、言ったんだ。


似合ってるよって。
彼女を忘れないでって。


初めて僕が彼女の服を身に纏って、 死体を片づけられたこの部屋に入った時。
あの汚い子供が僕の後ろに立って、そう、言った。
ああ、そうか。そうだね。
振り返って、僕は微笑った。






あ?
僕は何を喋ってるんだ・・・・・・





依頼人・財閥の老女


何を聞こうと言うんだね!?
わたし?
わたしがあの娘に投げつけた言葉を、聞きたい!?

それはもう、罵りと妬みと、
思いつく限りの憎しみの言葉を投げつけてやったよ。
考えるだけで胸が早鐘を打つみたいだよ。
ああ、苦しくて堪らない。
忘れたかった、知りたくなかった、それをあの小娘は!!!



おや?
あんたの手は冷たくて気持ちいいね。

ふう。少し、ホッとするねえ。





・・・・・・どれだけ自分が酷いことを言ったかは自覚がありますよ。
だけどね、あの娘は母親とそっくりな顔をしていた。
わたしの若い頃と同じ顔をしていた。
その、艶やかな、形の整った唇が、憐れむように動くんですよ。



“ずっと、探してました”
“ずっと、会いたかったんです”
“母は誰のことも恨んでいませんでした”
“わたしたちを許してください”
“そして、出来るならわたしを孫と認めてください”
“家族が、欲しいんです”
“少しで良いから、傍にいてもいいですか?”




煩い、煩い、煩い!!
血の繋がりがわたしにとってどれ程の苦痛なのか、あの娘は 少しも気付かなかった!

わたしを憎悪させる者、
わたしがうち捨てた者、
わたしを恨んだ者、
わたしが忘れたかった者、
わたしに赦しを乞う者、
わたしを憐れむ者!!
―――わたしが、羨む者!!

わたしの娘と孫が、それら全てを演じた・・・・・・、
血の繋がりというにはあまりにも酷いとは思いませんか?



昔の、わたしと同じ顔で、
わたしのかつての恋人を奪い、
昔の、わたしと同じ顔で、
その過ちを悔い、家族として暮らしたいという。

眩暈がしました。
もう、うんざりでした。



だから



死ね、と

言ったんです。






そうわたしに言わしめて、わたしをまた苦しめる。




うんざり、
なんですよ。





浮浪者の少女


ああ、また来たんだね、探偵さん。

あたい、待ってたんだよ――――






あはは、あの大学生ねえ?
笑っちゃうよ、変態だよねえ?
だけどあいつは、それでも一番彼女を忘れないと思ったから。
ふとそう思ってさ、見逃したんだよ、偽幽霊騒ぎを。



・・・・・・妙に人の顔見つめてどうしたのさ?
もっと、よく見てみる?

誰も、気付かなかった、あたいの本当の顔に。



そう、そうだよ。
ふっ、くくくっ!
さすがだよね。
ご褒美に教えてあげる。

彼女は自分で自分を、



殺したの。


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