五郎ちゃんの日記 夏野―KAYA―



<恋の前。>



どんなところかな? 鎌倉って。

浮かれてるって?

・・・そんなことないよ、ちゃんとわかってる。

あたし達、だいそれてるよね。

執権さまのお屋敷からこっそり訴状を盗み出そうなんて。

大仕事だもん。

わかってるよ。

ただね、ほらここは鎌倉だよ。

都にはいない強くて かっこいい男が見つかるかもしれないし。

・・・なによ、期待くらいしてもいいじゃない。

どうせ、少しの滞在なんだから恋なんてする暇ないよ。

乙女心がわかんないんだから。

・・・あ〜、馬鹿にしてるでしょ、その目!!



<恋の後。>



・・・兄者はさぁ、頭剃ったこと後悔してないの?

ふ〜ん、あの強欲だった兄者がねー。

あたし?

あたしも後悔はしてないよ。

最後まで告げられなかったけど、恋したことは後悔してない。

だってほんとにほんとに好きだったもん。

最初から叶うことのない恋だったけど。

いっぱい泣いた恋だけど。

あの人を好きになって良かったって思ってるよ。

・・・でも、でもね。

恋をしたことは後悔してないけど

もうあんな想いはしたくない。

苦しかったんだよ、つらかったんだよ。

・・・だからもう恋はしたくないなぁ。

あたしさぁ、もう若くないし、身体が保たないよ。

あたしも尼さんにでもなるかなぁ。

ああ、また馬鹿にしてる。

・・・そうだね。

あの人が、あの人達が最期まで望んでいた優しい時代がきたら

また恋してもいいかな。



・・・そんなにぽんぽん頭を叩かないでよ。

大丈夫、なんだから・・・・・