新月村篇・後/9

「もっと・・・もっと啼いて」
君の声は俺が受け止めるから。
「全部、俺に・・・っ」
君が俺を受け入れたその感覚の奔流の全てを。

「ん、ん、ふぁっ」
仰け反り白い首を晒して。
巴が上り詰める。
剣心がうっすらと鬱血した指を抜いて、空かさず 唇を押し当てた。
腕はそのまま彼女の腰に回って、痛いほどに 抱き竦める。
「は・・・ぅ」
彼女が呼吸を求めるのも許さずに、深く強く舌を吸い上げた。
剣心が、己の奥へ奥へ穿ってくる感覚に、 巴の背がぐ、と反る。
「・・・っ!!」
そのまま声は口づけに呑まれて。
くたりとふたりの身体から力が抜けていった。

―――ぺろりと巴の唇を舐めあげて、剣心はまだその身体を 離そうとはしない。
汗ばんだ額を優しく撫で「ごめん」と小さな声で謝る。
巴は真っ黒な瞳をゆるゆると動かして、剣心を見上げた。
「・・・違いますよ、無理を云ったのはわたしなのですから、 わたしが謝る立場です」
剣心は目を瞬かせて。
困ったようにこつりと自分の額を、彼女の額に押し当てた。
「いや、だって・・・こういう体勢、辛かっただろ?」
「え・・・」
「だから、布団敷いてなくて殆ど脱がさなくて声も出させなくて」
早口でぼそぼそ喋るのはきっと照れがあるからなのだろう。
巴はくすりと笑って、小さな舌で剣心の唇を舐め返してみせた。
「そう、ですね。
 ちょっとぞくぞくしました」
「ぞく・・・?」
ふふ、と吐息で笑って。
巴は「わからなくて、いいです」とまるで謎かけのような返事をする。
剣心は彼女のこんなところはいつまで理解できないもの、と 諦めているのか。
納得いかない表情をしつつ「ふうん」と相づちを打った。
彼はもう一度ぎゅっと巴を抱き締めて。
「あと少ししたら、ちゃんと綺麗にするから、このままで居させて」
そう囁きながら、彼女の白い貝殻のような耳朶を噛む。
くすぐったそうに身を捩って、それでも巴はとても 幸せそうに微笑んだ。
「しかたない、ですね・・・いいですよ」

嘘。
こんなみっともない格好なのに。
離れがたくて、動けないのはわたしの方。

汗の匂い、擦り切れた古畳、自分たちの熱の残滓。
とても、心地よかった。



「あれえ?」
軽く湯浴みして、操がふと格子の向こうを見遣れば。
雪代縁の姿が、夜の闇に紛れて在った。
(こんな夜更けに何やってるのかしら?)
軽く首を捻ったものの、それ以上操は気に止めることもなく。
そのまま床に就くことにした。
縁といえば、ぶらぶらしながらふと目に入った 宿の近くの屋台で、蕎麦を啜っている。
(・・・今頃いちゃついてるのか・・・)
うっかり蕎麦を見つめる目が、ギン!と鋭くなってはいたが、 幸いそれは屋台の主人にしか知られることはなかった。
新月村篇・後 (完)
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