ゆずりは/4

「あなたには、感謝している」
不意に低く囁かれた感謝の言葉に、「え?」と 巴が大きく目を瞠った。
茶托の上に置かれた湯飲みの熱さが。
すっかり冷めてしまっている。
「どうしたんですか、いきなり?」
巴が小首を傾げて訊ねると、比古は 「馬鹿弟子の前じゃあ云えないもので」と、笑った。
「あれが、俺のところを飛び出した時。
 正直“無理”だと思っていた。
 世間知らずで、正義感ばかりが先走って。
 いつか、ぼろぼろになる、と懸念した」
巴は微かに身じろぎしたが。
すぐに居住まいを正して、まっすぐに比古を見る。
「・・・実際そうだったらしいが」
苦虫を噛み潰したような。
自嘲のような。
形容しがたい表情が、比古の顔を覆った。
それを見た巴が何か言葉をかけようとした時。
ゆっくりと大柄な身体が、折れた。
比古が。
頭を下げている。
「あ、あの・・・」
慌てた巴の呼びかけを無視して。
彼は言葉を続けた。

「俺が、あいつに教えてやれなかったことを。
 あなたは教えてくれた・・・」
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