杜鵑草/9-2

不意に足を止めて、巴が訊く。
剣心がそれに釣られるようにして、振り返った。
靄がべたりと肌について気持ち悪い。
「・・・うん」
「彼女が、気になりますか?」
「・・・そう、だよ。
 父親があんなに心配して。
 彼女をとても愛しているのに・・・彼女は喪った者ばかり視てた。
 無くす、ということがこんなに本人も周りも苦しいのかと思うと・・・」
巴は湿った髪を撫でつけると僅かに目を伏せる。
「ええ、そう、ですね。
 悼(いた)みが深ければ深い程・・・狂う」
巴の肩が微かに震えた。
じっとそれを見て、何故だか剣心は初めて出逢った頃の、彼女の瞳を思い出す。
「俺が―――」
剣心がつ、と彼女から視線を反らして呟いた。
「もしかしたら・・・俺が、斬ったのかもしれない・・・って」
巴がはっとして顔を上げる。
「―――可能性がないわけじゃ、ない。
 俺が、この手で、あの女性(ひと)の・・・」

(あげる)
(わたしをあげる)
(ぜんぶ)
(ぜんぶ)
お ま え が せ お う ん だ

吐き気がした。
目眩がした。
もしも。
そうだとしたら。
俺は。
背負いきれな・・・

じゃり。

小石を踏んで巴が剣心に近づくと、その肩に右手で触れた。
はっと我に返れば、巴の黒檀の瞳が静かに剣心の それを射抜いてくる。
「・・・可能性は、あります。
 けれど今の時世では、残念ですけれどよくある、ことです。
 “あなたでない”可能性も、充分あること」
「と、もえ・・・」
「あなたひとりが加害者ぶるのはどうでしょうか?
 ご自分を責めて、独りで何もかも背負い込むおつもりなら。
 それは、とんでもない思い上がりですよ」
剣心の、薄い色の瞳が大きく開く。
彼は、必死で虚勢を張った幼子がそれを曝かれたように、戸惑っていた。
その瞳に映り込んだ己の必死な顔を、巴はどこか 空々しく思いながら。
剣心の肩に置いた指先に更にぎゅっと力を込める。
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