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杜鵑草/8-3
「まあ、好きにするさ」 自分を真っ直ぐに射抜く巴の視線に、まるで 降参するかのように飯塚は両手を挙げた。 「俺は俺の仕事をすればいいんだし? ・・・巴ちゃんは巴ちゃんの仕事をするだけだ」 「ええ、わかっています」 巴は凛とした声で応える。 やれやれ、と呆れたかのように飯塚は鼻息を吐いた。 「ま、ぶっちゃけ巴ちゃんが失敗しても俺は構わないわけよ。 要は自分が甘い汁を吸いたいだけだからな」 「ちゃんとやってみせます。 抜刀斎は―――仇、ですから。 だからもう、わたしたちに拘(かか)わらないでください」 「へえ、んじゃお手並み拝見といきますか」 「・・・・・・」 おおこわ。 そんなきつく睨まなくても。 飯塚は心の中で毒づきながら、へらへらと笑って見せた。 お嬢ちゃん。 あんたはわかっているのかい? 抜刀斎を自分だけの仇と宣言する、その本当の理由を。 ああ、まるで抜刀斎は自分だけのものだと。 誰も彼に手を出すなと。 自分だけが彼に触れて良いのだと。 ―――そう、云ってるんだぜ? 全く純なこった。 おまえたちは揃いも揃って。 とその時、微かな足音を飯塚の耳が拾った。 彼は人並み外れて耳が良い。 それは彼の処世を助けてもいる。 (帰ってきたな・・・) 飯塚はもう一度へらっと笑うと巴に右手をひらひらさせた。 「さてと、酒も呑みたくなったし俺はとんずらさせてもらう。 わかっちゃいると思うが、抜刀斎には俺のことは内緒な?」 「・・・ええ」 飯塚は背中を見せたかと思うとするりとまた夜の闇に溶け込んだ。 巴は冷静さを装ってそれを見届けたが、 背にはまだ冷たい汗が伝っている。 (喰えない・・・男) さんざん自分たちを引っ掻き回して、遊びに飽きると去ってゆく。 「・・・しっかりしないと」 巴は大きく息を吐くと両の目蓋を閉じた。 (わたしの目的) (わたしの、ほんとう) 狂女の夫を斬ったのが誰なのか。 それはけして彼には知らせない。 そんな事実は自分の邪魔になるだけ、だから。 (そう) 彼は、自分へ犯した罪に対してだけ。 ―――裁かれれば、いい。 ■次へ ■剣心・巴その8へ戻る Worksへ |