彼は、生きていない。











それはひっそりと。
秘めやかに。

そして確実に進行していた。



気付かなかったわけじゃない。
ただ変わってゆけると信じていた。
変えてゆけると思い上がっていた。







逆刃刀を、譲っちゃったね
ああ
一区切り、ついたね
ああ
・・・ごくろうさま








・・・彼はわたしほど若くはなく。
わたしは彼ほど『過去』を背負っていなかった。

過ぎ去る時間が。
癒すものと安易に思いこみ。
日毎疲れてゆく、貴方の魂に。
・・・今や為す術がなくて。

刻々と裂け続ける地面に、僅かな脆い砂を埋めてゆくだけ。

彼のキズは、何よりも深くて。
まるで業(ごう)のようだ――――――







ねえ、この子わたしが好きだって
ああ
・・・貴方に懐かなかったのは、不思議だったけど
ああ
わたしなんかよりよっぽど
―――・・・
余程、知って、たんだ・・・・・・








貴方を生かすもの。
貴方を、逝かすもの。

その圧倒的な。



呪縛でもなく、支配でもなく。
貴方は貴方でしか、成り得なかったのだ。




あの『雪の日』から。







そうして。
萎えてゆく躰を引き摺るようにして。
引き摺られるようにして。

貴方は。



逝きたい、と。



往きたいと。











『行かない』



わたしが最後に下した決断は。



『わたしは、行けない』



幼(いとけな)い我が子の手をぎゅっと握って。
わたしは宣告する。

わたしは、あなたとは違う。
・・・だから貴方にわたしは惹かれ。
そんなわたしを、貴方は愛してくれたのでしょう。



だから。



『往けない』



その先にわたしはいけない。



それは始めから。
用意された理(ことわり)だった。

わたしたちは、小さく微笑い合って。







道を、分かつ。
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