汽笛。
晴れた空。
ゆったりと広がる雲。



「あっれ〜、鎌足さんじゃないですか」

ぶんぶんと手を振る宗次郎。
昔より体格がややがっしりしている。
膝を立てて座り込んでいた人物がその声に気付いて、振り向く。
紅い袴に、桜色の着物。
髪が少し伸びて肩に届いている。
初めは信じられないのか怪訝そうにしていた鎌足だが 歩み寄ってくる宗次郎の顔を認めると にっこりする。

「奇遇ねえ・・・、元気?」

「見ての通りですよ。
 鎌足さんこそ、お元気でしたか?」

「まあまあ、ね」

「なんだかまた美人になっちゃったんですね。
 ちょっと見間違えそうになりましたけど 思い切って声かけてよかったなあ」

「・・・相変わらず目がいいのね」

髪をなぶる潮風。
また、汽笛。

「その格好、女学生みたいですね」

「そうよぉ、これがあたしの仕事なのv」

宗次郎、鎌足の顔をじっと見つめて、

「・・・・・・へえぇ・・・」

「あんたは?何してるの今?」

「なんにも」

「え?」

「旅してるだけです」

鎌足、ゆっくりと立ち上がって裾の枯れ草を払う。

「旅、ねえ。
 ―――いつまで?」

宗次郎、からからと笑い声をあげて。

「それがさっぱりなんですよ」

つられて鎌足もくすくすと笑う。

「あたしもよ。さっぱり先がわかんないわ」

汽笛。

「時間だわ、あたし行くわね」

「ええ、お会いできて嬉しかったです」

それぞれが行くべき方角を向いて、数歩動く。
だが鎌足は急に足を止めて振り返る。
ひとつ深呼吸して。

「また、会いましょう」

ふいに声を掛けられて宗次郎が驚く。
振り向くと鎌足が片目を瞑って右手をひらひらさせている。

「仲間、だったものね」

宗次郎、笑う。
鎌足、その笑顔にはっとして。
それからまた歩み出す。

二人、背を向けて離れて行く。



葉擦れの音。

汽笛。
汽笛。

また、汽笛。
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