「もしあなたの大切な人が理不尽に殺されたとしたら
 あなたは・・・復讐しますか?」

いつか彼女がぽつりといった。

「たとえばその大切な人があなた以外の人にとっては
 誉められたような人でなくても」

ためらいがちに、―――小さな声で。




誰のことをいっているの?

あなたの薄い瞳がそういっていた。

肝心なことを一切伝えないで
私は彼からどんな答えが欲しいというのだろう。





薄々は彼女の自分に対する複雑な感情を知っていた。
それは正の方向ではなく負への感情。

例えば、軽蔑とか憐れみとか、そういったもの。

人斬りといった俺の仕事に対して・・・というより
もっと深いところで、俺自身に対して。

だから何と答えていいのかわからずに
ただ彼女を見つめていた。




私は彼に
この私の裡にあるどうしようもないせめぎ合いを
わかってもらいたいのだろうか?
それとも
彼の大切な人が誰なのか・・・確認したかったのだろうか?

質問したのは―――誰のため?





君がおそらくは同情で俺についてきてくれたのはわかってる。

それでも君がここにいてくれて、
俺はとても幸せなんだよ?

だから君が純粋な愛情で此処に居るのではないことを
悩まないで欲しいんだ。




あなたが、私のどす黒い感情を溢れさせる

だからあなたを殺すために、私はあなたを知った。

なのにあなたはわたしより綺麗なのね。
わたしより無垢なのね。

あなたは酷い男だ。
わたしは酷い女だ。





もっと俺が大人だったら、
君をこんなに悩ませないで
君を楽にさせてやれるだろうか。

君の内面の傷に触れることなく
君を安心させてやれるだろうか。




もっと私が大人だったら、
このふたつに裂かれる心の均衡をうまく操りながら
あなたに優しくしてあげられるだろうか。

あなたの中の視えない血痕を拭ってあげられるだろうか。







まだ幼いから。

其れがいいわけ。

だから大人になりたかった。

その方法が知りたかった。





そうしたら




そうすれば










幾年 幾度 降る雪も

もっとやさしかったのに
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