エアリスは甚(いた)くその絵がお気に入りだった。
小さな物だったので普段はポケットに入れていて、折りを見つけてはこっそり 取り出して、 眺めて、そして溜息をつく。



「なあ」
クラウドはユフィが皆と離れてひとりで居る時を見計らって そっと近づいて訊いてみた。
「最近エアリスが気に入ってる絵があるだろ?
 あれ、お前が彼女にあげたんだって?」
彼がユフィひとりだけに話しかけるのはまだ珍しかったので 彼女は始めきょとんとしていたが質問の内容を理解すると 小さく舌で唇を舐めて、悪戯っ子のような顔をした。

「うん、そうだよ。
 それがどうしたの?」
素知らぬ振りはお手の物。
好奇心は極力抑えて、しらばっくれてみる。
訊きづらそうにクラウドはユフィの右斜め上空を見遣った。
それでもやはり訊きたくて堪らないのか、斜め上空を見つめたまま口を開く。
「・・・一体何の絵なんだ?」
来た来た。
心の中で舌なめずりしながら、爽やかに笑ってユフィは答えた。
「そんなの直接エアリスに訊けばいいじゃない?」

クラウドの視線は今度は床に移った。
みるみる顔が赤くなってゆく。
「いや、だからさ、彼女には・・・なんていうか、訊きにくくて」
「え〜、どうして?」
「いや、だから・・・」
「うん?」
「いや・・・」

可笑しい。可笑しすぎる。
ユフィはクラウドが必要以上にエアリスを意識していることを知っていた。
だからほんの少しからかってみただけである。
いつも横柄で偉そうな彼もこうしてみるとなかなか可愛い。

「いいよ。許したげる」
「は?」
「い、いや、教えてあげる」
ユフィは他の仲間達が食堂でまだ賑わっていることを確かめるように頭(こうべ)を ぐるりと回して、クラウドに囁いた。
「あれはね、ウータイの昔の花嫁さんの絵なの」
「花嫁!?」
「うん。昔、物置を整理して出てきたんだけどね、
 とっても綺麗なんで取って置いたんだ。
 この間エアリスがそれを見てとても欲しがっちゃって」

そうか、エアリスも女の子なんだなあ、とクラウドが納得してるところへ ユフィはトドメの言葉を吐きだした。
「エアリス、誰かのお嫁さんになりたいのかなあ?」



ユフィが腹の中で笑いを堪えながら立ち去った後もクラウドはそこに佇んだまま 動けなかった。

お嫁さん・・・花嫁・・・・・・
誰かの・・・誰か!?

「ってことは誰かが好きなのか?」
思わず声にして叫んでしまう。
そこへ。

「ねえ、クラウド。ご飯食べないの?」
階下の食堂からロビーへ上がってきたエアリスが声を掛けてきたのだ。
「エ、エアリス――――――」
普段からは想像のつかない狼狽ぶり。
格好良く剣を振り回してモンスターをばっさり斬り捨てる、元ソルジャーだと 第三者は信じないかもしれない。
「?」
首を傾げながらエアリスはクラウドに近づいてきた。
「どうかした?」

さらさら、栗色の髪。
ゆらゆら、翡翠の瞳。
ふわふわ、花の香り。

片手で暫し己の両目を塞いで、やがてクラウドは決心したように 唇を噛み締めた。
くいっとエアリスの細い片腕を掴んでぐんぐんとホテルのテラスへ 導く。
「クラウド?ねえったら!」
困ったように声を発したがあまり逆らいもせず、エアリスはそのまま付いてきた。

星が幾つも瞬く夜天の下で。
ようやくクラウドは彼女の腕を離して、その夜初めて真正面から 彼女の瞳を見た。
「なあ、エアリス」
「なあに?」
きょとんと首を傾げて、上目遣いで彼を見る。
彼女はこれでもクラウドより年上なのだが。
その仕草は時々びっくりするほど幼い。
「・・・好きな奴いるのか?」
「え・・・?」
「お嫁さんになってもいいくらい、好きな男がいるのか?」
「・・・何?」

噛み合わない。
苛々したクラウドは自分でも思わぬ行動に出た。

「俺が・・・好きか?」
両腕で彼女の小さな身体をすっぽり包んで。
羽ばたこうとする小鳥を掴まえるように、優しく、けれどしっかりと 抱きしめた。
動いて良いのか悪いのか判断がつかずにエアリスは目をぱちぱちさせている。

「なあ・・・俺以外のヤツを好きになるなよ」

瞬間エアリスは身を固くした。
そして小さく息を吸い込む。
「やだ、クラウドったら」

彼の腕の中の小鳥はクスリと笑って。
とん、と彼の胸に頭を預けた。
「わたし、好きだっていろんな言葉で、初めから、
 あなたに伝えてたよ―――」





「ねえ」
エアリスはベンチに腰をおろしながら、クラウドに話しかけた。
「どうして今夜は様子が変だったの?」
「変・・・だったかな」
「うん」

クラウドはくしゃりと金の髪を掻き上げて、エアリスの隣りに腰掛ける。
満天の夜空は星が降り注ぎそうなほど明るい。

「エアリス、ユフィから絵をもらっただろ?」
「うん、そうよ」
「すっごくお気に入りだよな」
「・・・うん!」
彼女はポケットから小さな絵を取り出すとすっとクラウドの前に差しだした。
「これね、昔のウータイの民族衣装なんですって。
 エキゾチックで素敵でしょ?
 この蝶や花の柄とか、どうやって結ってるのかわかんない髪型も。
 それにほら、この絵の具ってどこかキラキラしてて光りが跳ねるの!」
そう言えば金銀の細かな粒子が月明かりの下でも反射している。
「だからさ・・・」
そこでクラウドは初めてはっとした。まさか。

「なあ、エアリス。
 これって花嫁さんだって知ってたか・・・?」
「え?そうなの?
 ああ、だから綺麗なんだね〜」



許すまじ。ユフィ。
やっとクラウドはユフィに嵌められたことを悟った。
あんのやろう・・・!人をからかいやがった!!

「どうしたの?クラウド?」
くるくると動く瞳がクラウドだけを捉えていた。
薄紅色の唇が彼の名を呼んでいる。

それがとても愛しくて。
ユフィへの怒りは忽ちどこかへ押しやられて、忘れ去られた。
ついっと彼女の左肩を片手で引き寄せたかと思うと、 クラウドはエアリスの唇に自分のそれを軽く重ねる。

唇が離れた途端、ふたりは真っ赤になったお互いを見交わして。
「好きだよ」
彼が囁いた言葉はさやけし月と星を立会人にして、 エアリスに届けられた。





後日。
こっそりふたりの忍び逢いを覗いていたユフィがクラウドの怒りから 巧みに逃れきったのは言うまでもない・・・・・・


どうしてこんなに出てくるの、ユフィちゃん、みたいな〜(^^;
甘いかなあ、らぶいかなあ、・・・コメディかな!?
うさこさん、中途半端でごめんなさいです〜(T.T)
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