真っ白な肌がとても綺麗だと思った。

小さな炎が揺れるシッポをくるんくるん回しながら。

甘い、野の花の香りが好きだった。

しゃらしゃらと頭の飾りが音を立てる。

華奢な指で彼の鼻先を撫でた。

ああ、心地よく冷たくて・・・
胸の中があったかくなる――――――









「人間って好きじゃあなかった」

目の前の燃え上がる炎に身体をますます紅く染めながらぼそり、とナナキは呟いた。
「ふうん?」
火照った頬を両手で挟みながらエアリスは微笑う。
「知ってた?」
「うん」



ぱちぱちと燃え上がる薪。
他の仲間は皆夜の眠りについて、示し合わせたわけでもないのに ナナキとエアリスだけが起きていた。



「でも、オイラ考えが変わったよ。
 あんなに一所懸命な人間がいるんだ、と解ったから」

膝を抱えたまま、エアリスはナナキの方に顔を向けた。
桜色のリボンがふわりとなびいて、ナナキの鋭い嗅覚はやはり微かな花の香りを捉える。

「それって誰のことなのかな?
 クラウド?バレット?ティファ?ヴィンセント?ユフィ?シド?ケット・シー?」
のんびりと仲間達の名前をひとつひとつ挙げ終えて、 悪戯っ子のように彼女は笑った。
解ってるだろう?と言いたげに 大げさに顰め面をしてナナキは困ったような声を出す。
「意地悪だなあ。
 そう。みんなだよ。みんな。
 オイラ、出逢えて良かったと思ってるよ。
 もちろんあんたにも・・・エアリス」

くすくすと零れる笑い声。
エアリスは少し照れたように、それでもややはしゃぐように答える。
「ありがと、ナナキ。
 逢えて良かったって言われるとサイコーに嬉しいな」

そのまま彼女は細い腕を伸ばして、ナナキの赤毛を触った。
指の間をくすぐってゆくその感触を、暫し楽しんでいる。



「お父さんが・・・」
やや押し殺した彼女の声に、潰れていない左目をナナキはぴくりと動かした。

「セトがこの村を守った真実を知ってからナナキは可愛くなったね」
「・・・・・・」
幾つもの入れ墨と傷を身体に刻んでいる、獣族の彼は彼女に何と答を返すべきか 迷って口を噤んでしまう。

「最初に会ったときはギスギスしてて、怖かった。
 でも今は可愛い」
「・・・・・・・・(ここは喜ぶべきなのか?)」
彼が忙しく目玉を動かしていることが彼女にも解ったのだろう、赤毛を撫でていた掌が 細かく震えたかと思うとエアリスが声を上げて笑い出した。
「あは、あはは。
 かわい〜い!」

エアリスは両腕をナナキの首にまわして抱きついてきた。
決して柔らかくはないが滑らかなその毛並みに頬ずりして、まだ笑っている。
子供みたいだ。絶対そうだ。
ナナキは困ったような、仕方がないような溜息をついた。

「成る程・・・、ティファがあんたを可愛い、と言った意味が解った」
「ティファが?
 ええ〜、わたし、彼女より年上なんだけどなあ」

ぷくっと頬を膨らませていかにも不満げに。
傾げた頭に合わせて揺れるリボンがふわふわと。

「・・・・・・」
確かに可愛い。
ナナキは心の奥で頷く。
しかしそれを口に出せば彼女がますますむくれるような気がして 言葉には出来ない。
その決断が正しかったのか気を取り直したエアリスは再び彼の毛に 擦り寄って来た。

「・・・大地の匂い」
「え?」
「大地と、樹々と、風と。
 ああ、多分ずうっと昔はこの星はこんな匂いにふさわしかったのね」
気が付けば、ナナキの鼻先に彼女の大きな碧の瞳が間近に在った。
「わたしたちの旅の終わりが、懐かしい星に還りますように・・・」

エアリスはとても優しく微笑んだ。
綺麗な人差し指をナナキの赤鼻にとん、と置いて。

「ナナキ―――カッコよくなったね」








彼女は子供みたいだ。
些細なことで笑い転げながら、心の中に入ってくる。
でも、ときどきドキッとする言葉や仕草。
うんと年上みたいな、深い、深い瞳の色。
子供みたいなんだけど、 やっぱり大人なんだろうか?
振り回されてるオイラがまだ子供なのかな。
でも、格好良くなったって。大人に近づいたって意味だよね。



うとうとし始めたエアリスのあどけない寝顔を見ながら。
ドキドキしてる自分の心臓の音を聞きながら。

ナナキはその夜、お姫様の番人を勤めた。


ナナキって結構年取ってるんですよね〜(^^;
なのにこの子供っぽさは何でしょう(笑)
いえ、わたし手が滑ってらぶらぶに突入しそうだったんですよ、
やばいやばい(爆)
少しはほのぼのしてましたでしょうか?ねこはかせさん(^^;
[Back]