「検にい、次は独楽回そう!!」
はち切れそうな元気の良さに、面食らう。
「え、ああ、いいよ」
「違う!手鞠!!手鞠しよっ!」
そうしてまた、延々と子ども達を相手にする。
巴は乾いた洗濯物を取り込みながら、ちらちらとその光景を眺めた。

(・・・よく笑う)
子ども達と混じり合っても、遜色ない綺麗な笑顔。
(こんな風に、笑えるなんて)
大人ばかりに囲まれていた小萩屋にいた頃とは、まるで別人だ。
(いつも何かに駆り立てられるように)
(焦って)
(苛々して)
(そして、それを振り切るように、人斬りをこなした)

―――剣心が『一緒に暮らそう』と云った時の表情が、多分巴が最初に 見た、彼の本当の笑顔だ。

(・・・わたしだけが)
知っているつもりだったのに。
大きく傾いた陽の、赤い光が瞳を射る。
眩しくて俯くと、ぽん、と優しく肩を叩かれた。
「あ・・・」
「なに?考え事?」
剣心がやはり笑いながら話しかける。
「い、いえ、すみません」
「?何が?」
そうして彼はその笑みを浮かべたまま、子ども達へ向き直った。
「さあ、陽が暮れる。
 みんなお帰り」

―――わたしだけの、ものだったのに。



その夜誘ったのは確かに巴の方だった。
おそらく剣心はそうと気付いてはいないのだろうが。

ざらついた舌が、慣れたように巴のうなじを滑り。
細い指が、優しく時に強引に、背を行き来する。
「あ、あっ」
いつからか声をあげるのを我慢しなくなっていた。
組み敷かれたまま、彼のしなやかな背中にぎりぎりと爪を立て。
閉じたままになりそうな目蓋を無理矢理開いて、剣心の瞳を覗く。

ちりり、とした痛みに微かに双眸を細める彼の。
その表情が見たい。
巴が彼の愛撫に反応して、仰け反る度に。
彼の薄い瞳が愛欲に濡れるところを見たい。

「と、もえ・・・っ」
激しくなる息遣いで、自分を呼ぶ彼の声。
彼女の肩に縋るようにして抱き込み、汗でぬめるのも構わずに密着して。
歯がぶつかり合うほど口づけて。
深く深く。
そう、もっともっと。
わたしを求めて。

「巴・・・!」



わたしは。
貴方の鞘になった。
だから貴方は。
わたしを絶対視して。



「は・・・あ、あなた・・・っ」



貴方は。
わたしの全てを奪ったの。
だからわたしは。
貴方の全てになる。



軋み続ける頼りない床。
ぼやけてゆく天井の木目。
熱い息と、汗と。
わたしの髪を絡めてわたしの腰を抱くあなたの手。
あなたの背へ食い込み、引っ掻くわたしの指。
ひとつになりたがろうとする、ふたつの肉体。
わたしだけを映す、あなたの瞳に。
わたしの紅潮した顔が映る。



ああ、そうだ。
あなたをたすくのは、わたし。
あなたを堕とすのは、わたし。

これ以上の『刀』があるのだろうか?
これ以上の『斬』があるのだろうか?

これは。
これは。
報復なの、復讐なの、恨みなの。
嫌悪なの、後悔なの、狂気なの。



「あな、た・・・っ!あな・・っ」
「巴、巴、とも・・・!!」







愛じゃない。
愛じゃない。

愛、じゃない―――――――――!!














規則正しい寝息を聞きながら。
巴はそっと身を起こした。
無防備に眠るその、あどけなささえ感じさせる顔。

綺麗、だと思う。
敵わない、と知っている。

「わたしは、あなたを傷つける」
「わたしは、あなたを突き落とす」
どんな形であれ、自分は彼の前からいつか居なくなるだろう。
そう、そう遠くない未来(さき)に。
彼は。
血みどろになるかも知れない。
蹲って動けなくなるかもしれない。
何も、感じることが出来なくなるかも知れない。

「・・・自惚れていると、思いますか・・・?
 だけど、きっと」



あなたは

壊れない



巴は眠る剣心の左頬に、己の頬をそっと寄せた。
さら、と流れた黒髪が彼の赤い髪と混じり合って。
けれども同じ色になることはないのが、無性に淋しく思えて。
瞳を閉じた巴の鼻筋を。
静かに静かに。
涙が流れた。


片山恭一もハーラン・エリスンも読んでないので、
タイトルはあまり深読みしちゃいけません(笑)
で、でもこれラブいのかな・・・?
泣けるのかな・・・?
泣いたのは巴ちゃんですが(>▽<;;
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