手応えがあった。
握力の落ちてきた指先に渾身の力を込めて切り下げる。
吹き出す血潮。
だがセフィロスの表情は変わらない。

「クラウド!!」
ナナキの声にはじかれるようにクラウドは 召喚マテリアをかざす。

「・・・覚悟しろ、セフィロス!!」
最強の召喚魔法『ナイツオブラウンド』が炸裂した。





幾度かの衝撃が止んだ。

気がつくとクラウドの周りは闇だった。
仲間たちもどこへ消えたのか気配すら感じられない。
ピリッと左の中指に軽い刺激が走った。
顔を上げて真正面の闇を見つめる。

「セフィロス・・・」

闇から溶け出るようにセフィロスが姿を現した。
さっきまで戦っていた人間離れした姿ではない。
クラウドが一番よく知っている、彼が最もあこがれた ソルジャーの姿・・・。

「お前のおかげでこの星は命拾いしたようだ」

秀麗な顔を歪めてセフィロスが笑った。

「・・・それがエアリスの望みだからな」
血塗れのアルテマウェポンを構えてクラウドが答える。
途端にくくっとセフィロスが喉を鳴らした。

「お前は気づいてないのか。
 ・・・彼女に体よく利用されたことに」

「利用、だと?」
いつでも反応出来るよう身体中に神経を張り巡らせながら クラウドは問うた。

「あの女はセトラだ。
 何よりも星の命を選ぶ。
 お前は彼女の望みを達成させるための手駒にすぎなかったのさ」

しゃべりながらじりじりとセフィロスは間合いを詰めて行く。

「・・・だから何だって言うんだ」

クラウドのその返事にセフィロスの動きがぴたりと止まった。

「彼女はこの星を俺たちに託した。
 その意味がお前にはわかっていない。
 ・・・それに」

ゆっくりと息を吸い込む。

「俺たちはまだ何も始まってなかった。
 始まる前にセフィロス、・・・お前が断ち切った」

クラウドの魔晄に染まった瞳がすっと細められた。

「お前にはわからない。
 彼女がどんな想いで俺たちにこの星を託したのか。
 俺がどんな想いでここまできたか。
 セフィロス、お前は・・・・・・!!」

・・・・・恋だとはわからなかった。

亡くして初めて気がついた。

もっとはやくわかっていれば。

もっと彼女が生きていれば。

クラウドの恋は始まっていたかもしれない。


セフィロスの闘気が今までと一変した。
それに呼応するようにクラウドは『超究武神覇斬』の構えに入る。

瞬間の静寂。

そして。





かすかに甘い香りがしてクラウドは意識を取り戻した。

激しい光の渦がクラウドの周りをうねりながら流れていく。

「ここは・・・」

見覚えがあった。
ここは『ライフストリーム』の中だ。
それにこの香り。
知っている、これはエアリスが最初に自分に 手渡してくれた花の香り。
伍番街スラムの教会に咲いていた花の。

「エアリス・・・?」

クラウドの声に反応するように目の前の光が歪み、 ふわりとエアリスが姿を現した。
依然と変わらない屈託のない笑みを浮かべて。

「・・・!!」
クラウドは思わず手を伸ばしてエアリスの左腕を掴まえる。
そうしてぐいと引き寄せて力一杯彼女を抱きしめた。

温かな身体。
絹の髪。
花の香り。

・・・でもこの現実感の無さはどうだろう?


「クラウド」
やや苦しげに腕の中でくぐもった声がした。
あまりに力を入れすぎていたのに気づいて慌てて 両腕を広げる。

その様子を見てエアリスはまた花のように笑った。

「・・・自分を取り戻せたんだね、クラウド。
 クラウド自身の力でセフィロスを止めたんだね。
 そうしてこの星を助けてくれた。
 ・・・わたしが好きになった人はすごいや」

瞬きする事すら忘れてエアリスの顔を見入っていたクラウドは その言葉に大きく頭(かぶり)を振った。

「俺は君を守れなかった、エアリス。
 ・・・俺は君にずっと謝らなきゃ、って・・・
 あの時何もできなくて
 ずっとずっと後悔してた。
 ・・・君に言わなきゃならないことを
 言いたくてずっとずっと・・・」

言葉が溢れて支離滅裂になる。
クラウドの声は次第にかすれていつの間にか 涙が頬を伝っていた。
エアリスがその白い右手でそっと拭う。

「また会おうね、ってわたしクラウドに言ったよね。
 クラウドが星を守ってくれたから  わたし約束守れたんだよ?
 ・・・充分だよ、わたし・・・」

エアリスはクラウドの耳元でささやいた。

「だからもう、自分を責めないで。
 ・・・生きてね、クラウド」
はっとしてクラウドが顔を上げるとエアリスの姿がぼんやりと かすみはじめた。
もう一度エアリスを捉えようとするがするりとすり抜けてしまう。

「エアリス!!
 まだだ、まだ終わらせない!
 俺は終わらせない!
 エアリス、エアリス・・・・!!」

幾度も叫ぶクラウドの声は光の中に吸い込まれて行く。
嬉しそうにエアリスが微笑んだ気がしたがやがて完全に 彼女は消え去った。

それでもクラウドは繰り返した。

まだだ。
まだ終わらせない・・・・・




・・・蒼く高い空がどこまでも広がる。

ミッドガルはほぼ壊滅したが生き残った人々は逞しく 新しい営みを始めていた。

遙か眼下にひろがるかつての都市をクラウドは しばらく眺めていたが
やがて背を向けゆっくりと歩き始めた。




そうしてふたりの

はじまらなかった恋がはじまる。


はい、アテのない旅に出るところがクラウドらしいですね(笑)
最後セフィロスを『ナイツオブラウンド』でめためたにするところは
私がやったFFZのエンディングです(^_^;)
イラストのところには 『約束』をいれてください(おいおい・・・)
怜さん、この程度のものしかできませんでしたが
どうぞ、お納めくださいませ(笑)
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