「じゃあ、俺とバレットは武器屋。
 エアリスとユフィは道具屋。
 ティファとナナキが防具屋。
 ケット・シーとシドが宝箱漁り、以上だ」
「なんでぇ、宝箱漁りっつーのは!!」
「言い方はどうだっていいだろう?」
ち・が・う。
 トレジャーハンティング!!いいな?」
「ああ、好きにしろよ・・・」

不毛な会話を聞き流しながら、ティファはくるりと辺りを見回して、 クラウドに訊ねた。
「あら?ヴィンセントは?」
気難しく眉を寄せながら、クラウドは「ヴィンか・・・。役に立たないぜ、ったく」と 吐き捨てるように呟く。

「ほら、今日はお天気がいいでしょ?
 ヴィンセントが眩しすぎるって、棺桶でお昼寝なの・・・」
むすっと不機嫌そうなクラウドに代わって、エアリスが説明する。
「まー普段から影の薄いヤツだからな。
 ほっとけよ。
 それよりもさっさと買い物しようぜっ!!」
バレットが意気揚々とクラウドを引っ張りながら歩き出した。
「いてっ!
 もうちょっと優しくしろよ、バレット!!
 あ、エアリス、迷子にならないようになっ。
 さっさと済ませて宿に帰るんだぞっ!!」
引きずられながらクラウドはエアリスに向かって叫ぶ。
「だいじょーぶよ〜〜vv」
子供じゃないんだから、とエアリスはユフィと頷き合った。
「クラウドの心配は最もよ、エアリス。
 子供みたいにちょっとよそ見してたら、すぐ迷子になるでしょ?」
ティファがくすくす笑いながらクラウドをフォローする。
「このユフィさまがついてますから!!」
「オイラ、ユフィの方が心配だよ・・・」
横からぼそりと呟いたナナキに、ユフィが素早く蹴りを入れた。
キャウン!!ひどいよ〜〜(涙)」
「うっさいわね!さあて、こんな大きい街は久しぶりだもん。
 さくさくと買い物して遊ぶわよっ!!
 さ、行こエアリス!!」
「マジ不安なヤツら・・・」
ぷかぷか煙草を燻らせながら、シドはケット・シーと苦笑した。



奥行きの広い店内で、ユフィとエアリスは顔を付き合わしていた。
「『チョコボのはね』・・・レアなアクセサリーだよねえ」
腕組みをしながらふう、と溜め息を吐くユフィ。
「確かに欲しいけど一万ギルはちょっと・・・」
小首を傾げながら、ほお、と溜め息を吐くエアリス。
やがてピンクのリボンをふるふるとさせて、エアリスはユフィに向き直った。
「止めましょう。
 ポーションとか、炎の指輪とか。
 必要になる物だけにしないと」
「うん、そうだね。
 ああ、貧乏はつらいなあ」
ユフィはそう言いながら天を仰いだ時。
キーの高いだみ声が響いた。
「ボクが買ってあげようか?
 お嬢ちゃん達?」
「「へ?」」
ふたりが振り返ったそこには。
到底美とはほど遠いセンスのキラキラスーツ男が肩までの髪を靡かせながら (ちなみに風はお付きの野郎どもが扇風機で起こしていた)、 人工的な白い歯を見せていた。

・・・げ

勿論そんなはしたない声を出したのはユフィであるが、エアリスも 心の中で同じ声は発していたのである。
「・・・せっかくですけれど、見ず知らずの方にそこまでしてもらうわけにはまいりません。
 失礼いたします」
エアリスは流暢に申し出を断ると、ユフィの手を引き、さっさと 店を出ようとした。
しかし。
サイテースーツ男の配下と思われる男達が十数人、出口の前に立ちふさがった。
「ああ、ありゃこの街の有名な金持ち息子だ。
 傍若無人、女好き、しかもはた迷惑で有名なんだよ・・・
 とほほ」
店の主人は困ったように笑って、とばっちりを喰わないように、 カウンターの下へ非難する。
他の客達も心得たように店の隅へと移動した。

「・・・どいてよ」
好戦的なユフィは、男達を睨みながら、低い声で一応頼んでみた。
だが男達はにやにやしながら、そこを動こうとはしない。

ムカムカ

センスも最低だが、大人数で女の子を取り囲むその腐った根性も気に入らない。
黒い瞳をきつく光らせて、ジャ、と手にある不倶戴天を構える。
「ユフィ、軽率よ!!」
エアリスが止めようとしたが、すでに遅く。
ユフィの構えに反応した男達が、手に手に凶器をひけらかせながら 襲いかかった。

ドガッ!ばきっ!!ズガ!!ゴンッ!!

大乱闘は、盛大に店の三分の一を破壊し、ドアをぶち壊して、たちまち大通りへと 舞台を移した。
「ユフィ!!」
エアリスは喧嘩を嬉々としてやりまくる彼女を止めようとしたが、 大音響にかき消され、声が届かない。
きゅっと唇を引き結んでその大乱闘のまっただ中へ、エアリスが飛び込もうとした時。
ぐい、と彼女の腕を掴む者があった。

まだその場に居た、サイテー金持ち坊ちゃんである。



「なんだか騒がしいな」
「ケンカですな。
 この街のモラルはあんま良くないようですわ」
大きな袋にせっせと発見した宝箱の中身を詰めながら、シドとケット・シーは 向こうの通りの喧騒に気付いた。
だがしかし、それがユフィとその他大勢の者であることには気付かなかった。
そこへ。
「お〜お前ら。
 宝箱漁りは大成果の様じゃあねーか!」
がはは、と笑いながらバレットが近づく。
そのすぐ後をクラウドが、今し方購入したばかりのクリスタルソードを振り回し歩いていた。
トレジャーハンティングだっつってんだろが。
 ・・・バレット達こそ、いい武器があったようだな」
「おお、見ろよ、こいつマテリア穴が八個もあるぜ!」
「クラウドはんも結構な剣が見つかったようどすな。
 ・・・?クラウドはん??」

クラウドは何故か直立不動だった。
不思議に思って、バレットが肩を揺する。
「クラウド、何突っ立ってんだよ・・・」

・・・めて、離し・・・

呼んでる
クラウドの右耳が、ぴくりと震えた。
「はあ?」
訳が解らなくて、バレットやシド、ケット・シーは首を捻る。
エアリスが、危ないっ!!
「お、おい、なにいってんだよ!?」

だが、その時すでにクラウドの姿はなく。
一陣のつむじ風が、木の葉を一枚ひらりと押し上げているだけだった。



「やめて、離してください!!」
懸命に金持ち坊ちゃんの手を振り払おうとするが、男はへらへらしながら エアリスを見つめるだけだ。
「・・・もう、いい加減にしないと・・・」
業を煮やしたエアリスが、隠し持っていたロッドを振りかざす。
「サンダ・・・」
彼女がいかずち魔法を詠唱しようとした時。
いきなりふわりとエアリスの身体が持ち上がり。
同時に

ごきり

と鈍い音が響き渡った。

いってええええっ!!
先程までにやついていた男は、自分の右手首を押さえながら、 ゴロゴロと床をのたうち回っている。
「・・・・・・クラウド」
エアリスは、己の腰をしっかりと抱きとめている、青年を見上げ。
花が咲き綻ぶように笑った。
瞬間移動の如く、エアリスのピンチに駆けつけたクラウドは、 息ひとつ乱さずに転げ回り続ける男に、氷のような視線を向けている。

俺の エアリスに、

 その汚い手をかけるとは・・・


『俺の』の部分の声が小さいのは、クラウドが一応周りに配慮したせいだ。
だが、不埒な男に対しては遠慮のえの字も当然ありはしない。

「おい、今度はその短い足を折ってやろうか・・・?」
「ひ・・・ひいいい〜〜〜」
情け無い悲鳴をあげながら、坊ちゃんは自分の配下達が何をしているのか 視線を廻らせた。
「う!!」
常に自分の手足となり、盾となる部下達は。
黒い髪のショートカットの女の子に、見るも無惨に伸されてしまっている。
男は蒼白な顔で、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした。

「ごめん、ごめん、つい夢中になっちゃって。
 エアリスをおろそかにしちゃった〜」
たはは、と笑いながらユフィはクラウド達の元へ駆け寄ってゆく。
何やってるんだよ!
 エアリスに万が一のことがあったらどう責任とるんだ!?

激昂して捲し立てるクラウドを、エアリスが「まあまあ」となだめる。
「クラウドったら、わたしだって攻撃魔法とかできるんだから。
 そんなに心配しなくてもいいから、ね?」
ちょこっと首を傾げて、とっておきの微笑みを浮かべ。
至近距離でその攻撃を受けては、クラウドは骨抜きだ。
「あ・・・ま、まあ、君がそう言うんなら・・・」
顔を真っ赤にして、心臓をばくばくさせて。
それでも必死に渋面を装いながら、クラウドが重々しく頷く。
ふふ、とエアリスが笑って。
折れた手首を痛がって、まだ涙を流している男に向き直った。

「ケアル!」
くるりとロッドを振って、たちまち男の怪我を治してしまうと、 「そんなヤツに情けをかけなくても・・・」と文句を言いかけたクラウドを制し。
またくるりとロッドを振った。
「ミニマム!!」
ぼん、と音を立てて。
さっきまで男がひーひー泣きながら転がっていた床に、 一匹の小さな蛙が出現した。

「あーら、いい気味!!」
にやにやしながら、ユフィが囃す。
「・・・どうするんだ、コイツ」
呆気に取られて、クラウドがエアリスに訊ねると、エアリスは碧の瞳を キラキラさせて。
悪戯っ子のように笑いを浮かべた。
「このお店に、随分迷惑かけちゃったから、この男の親に弁償させようかと思って。
 お宅の息子さんを元に戻して欲しければ、って脅かせばばっちりじゃない?」

「「エアリス・・・」」

一瞬固まったクラウドとユフィに気付かずに、エアリスはなおも言い募った。
「あ、もう悪さをして街の人を困らせないように、
 呪いもかけておかなくっちゃvv」



「―――で、道具屋の主人に感謝されて、『チョコボのはね』を手に入れたのね?」
ティファが驚き呆れて、念を押した。
ユフィがこくこくと縦に首を振る。
「まあ、終わりよければ、って感じかしら?
 高価な品を手に入れたんだし」
長い黒髪を掻き上げて、ティファが肩を竦めた。
「大体みんな忘れてるんじゃないの?
 エアリスは幼少から神羅と追いかけっこしてきたのよ。
 いわば、百戦錬磨。
 わたし達のパーティの中では、一番しっかりしてるんじゃない?」
うわー、気付かなかった!!とユフィはぽんと手を打った。
「ところでクラウドとエアリスはどこに?」
ナナキが炎の尻尾をふりふりして訊ねると、ユフィがキシシ、と 笑って答える。
「デエトよ、デート!!」



見て、見てとエアリスが指差す先に、真っ白なシルクのドレスが 飾ってあった。
「思い出すわね、コルネオの館を」
「ああ、あん時は大変だった・・・」
でも、確か彼女がドレスをいろいろ試着して。
はしゃいで。
とても可愛かったな・・・・・・

「―――旅が終わったら」
「え?」
「買ってやるよ。
 いくらでも」

ちょっと照れたように、それでも真摯な眼差しで。
クラウドがエアリスを見た。
エアリスは嬉しそうに、微笑んで。
彼の首へ腕を伸ばす。
「うん・・・待ってる」

そして降ってくる、口付けの雨。


うひゃー、無駄に長いですね。
しかもちょっとラブラブ度が低いです。
も、申し訳ありませ〜ん(^^;
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