どうしてこんなに君のことが印象的だったのか、ずっと考えていた。
鋼鉄の匂いと重い灰色の空。
そんなスラムで君の持っていた花の色は確かに綺麗だったけれど。

・・・それだけじゃない。

俺が、君に感じた引力のようなもの。


出逢った頃はそれが知りたくて、いつも、考えていた。





「デートしよっ」
くん、と俺の腕を引っ張って、彼女のまとめてある長い髪が揺れる。

キーストーンを手に入れるために訪れたゴールドソーサーで、 明日はいよいよ古代種の神殿へ向かうという夜。

もしかしてエアリスは少し不安がっているんじゃないかと思った。
『古代種の神殿』は彼女自身に大きく関わってくる場所だから。
―――そんなことを考えて俺は不自然なくらい長いこと彼女の顔を見つめていたらしい。

なかなか返事をしない俺に焦れてエアリスは掴んだ腕をもう一度引っ張った。

「クラウド、デ・エ・ト!!」

一語一語区切りながら俺の耳元で大きく声を張り上げる。

「・・・うっ・・・わかったよ」
少しキンキンする左耳を気にしながら俺はようやく言葉を返した。
相変わらず視線はエアリスの顔ひとつ左を彷徨う。



・・・もう少し笑ってやればいいのに。
またふてくされたような顔をしているな、俺は。
エアリスはいつもあんなに楽しそうに笑うのに。



頭の中で反省していながら、強張った表情で俺はエアリスの後を歩く。

「クラウドってさあ」
両腕を組みながらエアリスが振り返った。

「どうしていつもそう渋面つくってるの?」
「え、そう、かな・・・」(あんたの言うとおりだ・・・)
「クラウドってさ、かっこいいんだからたまには笑いなよ。
 女の子、放っておかないよ?」
「・・・興味ないな」

照れ臭さも相まってますますぶっきらぼうになる言葉。
多分それは彼女に見抜かれてて。
エアリスは吹き出すように笑いだした。
ころころと転がってゆく声。
耳に心地いい響き。

―――やっと笑い納めて、 エアリスはちょっと迷うように二、三歩進み、そしてまたくるりと振り返った。

「・・・でも今日くらいはわたしに興味を持ってくれる?」
「え?」



どきりとした。
これ程の驚きは最近ではなかったように思う。
・・・心臓が跳ねるってこういうことをいうのかな?



「一応デートなら、・・・興味ない、じゃ失礼だしな」

何言ってるんだ、俺は。
もっと気の利いたセリフくらい言ってやってもいいじゃないか。
彼女は大切な仲間だ。
嫌いじゃないし。
むしろ・・・・・・



いつの間にか俺は足を止めていたのだろう。
気付けばエアリスが俺の後ろに回って背中をぐいぐいと押している。
「もう、クラウドったら!!
 夜が明けちゃうじゃない」
「あ、あ、すまない・・・」

背中に感じる、彼女の両の掌。
指の細さがそれだけで解った。
身体が少しネツを帯びてくる。
俺はなんだか落ち着かなくて視線を周りに漂わせた。
・・・あちこちで瞬く原色のネオンが強烈で目に痛い。

喧噪が幾つも流れて行くこの快楽の都で。
何もかもの輪郭が曖昧になってゆきそうだった。

―――思わず俺は彼女の白い手首を掴む。


一瞬驚いたような顔をしたけれど、彼女はすぐに
はにかんだように笑ってくれた。
それに見とれていた自分を誤魔化すように俺は そのまま彼女の手を引いてぐんぐん歩く。

早鐘の鼓動が普段のリズムを打ち出すまで。
火照った頬が冷めるまで・・・・・・







今度こそは大丈夫と思ったシューティングコースターで またも気分が悪くなり俺はふらふらとベンチに座り込んだ。
エアリスが慌てて濡らしてくれた若葉色のハンカチを瞼の上に置く。

・・・かっこわるいな。
彼女は全然平気そうなのに。
これでよくソルジャーなんていえるよ。
・・・ソルジャー・・・?

引っ掛かった。

以前もこんな風に思った。
わざと気にかけないようにしてきたけれど。

・・・俺は、いつソルジャーになったんだっけ・・・

これは自分の存在そのものに対する疑問だった。
可笑しいよな、自分が自分で在ることを疑うなんて。



ハンカチを外して首を動かし、エアリスを見遣った。
彼女は変わらない微笑みで俺の隣に座っている。

「エアリス」
「うん?」
「どうしてあんたはそんな風にいつも笑えるんだ?」
翠の瞳が怪訝そうに揺らぐ。
「あんたはセトラの・・・古代種とかの最後の生き残りだろう?
 自分が最後の、特別な血をひくことが不安じゃないのか?」

しばらくエアリスは沈黙していた。
多分、俺の言葉の真意が知りたかったのだろう。
やがて薄紅色の形のいい唇が開く。

「そうね、古代種はわたし独り。
 独りっていうのはどんな場合でも・・・哀しい、と思う。
 でも、
 でもね、“エアリス”は独りじゃないから」
「?」
「エアリスにはエルミナ母さんも、あなた達もいてくれるから。
 仲間だって言ってくれて嬉しかった。
 助けに来てくれて嬉しかった。
 クラウド、わたしあなたとこうしていられて―――幸せだもの」

幸せ?
俺といることが?
・・・俺は俺自身を疑ってる、そんな存在なのに。
「幼なじみのティファだって俺をまっすぐ見ないのに?」
思わず口をついて出る言葉。

・・・俺はエアリスに慰めてもらいたいんだろうか。

俯いてる俺の顔を覗き込んで、
エアリスはまた微笑んだ。
「わたし、クラウドのこと好きだよ。
 わたしは、わたしの知ってるクラウドを信じてるもの。
 ・・・それじゃ駄目かな?」



“信じてる”、か・・・・・・

魔法使いのエアリス。
君は言葉にも魔力を持ってるんだね。

やっとわかった。
君は初めから俺をまっすぐに見ていてくれた。
何の躊躇いもなく。
その、深い翡翠の瞳で、逸らすことなく。

これが、俺が感じた引力の正体――――――






かたたん、かたたん




どこかで何かの遊具が動く音。

明るく虚空を描いていたレーザー光線も、いつの間にか筆を置いて。



俺はぎこちない指先で彼女の綺麗な頬の輪郭を辿った。
恥ずかしそうに、それでも真っ直ぐ俺の方を見てエアリスは微笑んでくれた。
今度は両腕で彼女の細い肩を抱きしめる。

微かな花の香りを吸い込んで。
茶褐色の長い髪を指に絡ませて。



・・・愛おしさが溢れた。
俺は、ずっとこうしたかったのかもしれない。



抱きしめる彼女の温もりが気持ちよくて。 このまま時が止まればいいと思った。



彼女の顔を両手で包むようにして
俺は自分の中の衝動に躊躇せず、彼女の唇を塞いだ。
軽く、ついばむように。
そしてやがて深く貪る。

白い腕を俺の首に回して、エアリスもそれに応えた。



身体中が熱かった。
この熱を彼女に移したかった。

彼女の細い腰を掻き抱いてますます強く密着する。




君は、俺をここに、留めてくれた。
君自身に架せられた運命に潰されず。




ちゃんと、誓うよ。

俺が君を護る。





俺は、君を護りたい・・・・・・







どこかで、パレードが始まったようだった。
賑やかな音楽がどんどん大きく響き、その音の濁流に 俺達はやがて呑み込まれた。


・・・って、クラウドの約束破りめ〜〜!!(笑)
それにしてもまた一人称にしてしまいました。あう(^_^;)
これ、あまあまでしょうか?怜さん。
砂吐きながら打ったんですが・・・(爆)
わたし、こーゆーの、紋切り型になっちゃうんですよね(T.T)
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