月が、みえる。

こんなに綺麗な月を見上げたのは、一体いつ以来のことだろう。


薄い硝子越しの青白い煌めきの中で。
翡翠の瞳が揺れる。



あまりの月の明るさに寝付かれず、彼女はそっとベッドを抜け出し 窓辺に立って外を眺めていた。

こんな日は、星がざわめいて、眠れない――――――






感覚が、痛いほど研ぎ澄まされていた。

戦いが続けば続くほど、ますます鋭利になってゆく。


仲間達と同じ部屋で寝付かれないほど、神経は過敏になっていた。
それでもそれを仲間達には知られたくなくて
追い込まれるように無口になってゆく。

彼は、自分にうんざりしていた。




・・・明るすぎる月が苛立ちを増幅させる。






微かな音がした。
エアリスは身体を少し屈めて窓硝子に額を当ててみた。
視線を右隅に奔らせると見慣れた人物の影がある。

「・・・クラウド?」

小さな声で呟いて、側で眠るティファやユフィ達に気付かれないように そっと窓を開けた。
クラウドはバレット達が眠る隣の部屋のバルコニーから 身を乗り出してエアリスを見て微笑っている。

「来いよ。眠れないんだろう?」

そう言ってクラウドはひらりと彼女たちの部屋のバルコニーに移動した。
そうしてエアリスに手を差し伸べる。
こくんと頷いて彼女は肩のショールを掛け直した。

「じゃ、夜の散歩だ」

クラウドは彼女を軽々と抱え上げ、事も無げに中庭へ飛び降りた。
少しびっくりしたものの、生来好奇心旺盛なエアリスは楽しそうな笑い声をあげた。
勿論、誰にも気付かれないように小さな声で。

「ね、いいの?
 ティファ達が気付いたらきっと心配するよ?」
「夜明けまでには戻るさ」

そう言ってクラウドは抱きかかえていたエアリスを細心の注意で地面に下ろす。
「あ、わたしスリッパのまま・・・」
どうしよう、と困った表情(かお)の彼女に、 気にすることはないとクラウドは一蹴して再び彼女の手を取り歩き始めた。
戸惑うようにエアリスは小首を傾げたが、すぐに応えて彼に寄り添う。


夜の町はとても静かでクラウド達以外に石畳の上を歩くのは 仔猫ぐらいしか見当たらない。


強すぎる月の光が彼女の褐色の髪をぼんやり照らし出して、 エアリスの歩調に合わせて小さな光りの波を造り出してゆく。
クラウドは暫し見とれて喋ることを忘れてしまった。
緑の瞳が彼を捉えて、揺れる。
たおやかな指が彼の上腕を掠める。
陽の下で見慣れた彼女の仕草が、現在(いま)はとても新鮮で
・・・囚われる。
時々エアリスが何か話しかけてくるけれどクラウドはうっかり上の空で返事をしてしまって 怒られてしまう始末だ。

しばらくして二人は広場の花壇にたどり着き、自然そこのベンチに腰を下ろした。
「・・・クラウドも眠れなかったの?」
顔は満ちた月を見上げたままで、エアリスが久方ぶりに話しかけた。
思いがけず真摯な彼女の声音にクラウドはちょっとびっくりしたように振り向く。

「やぁっぱりそうなんだ」
エアリスは今度はクラウドの顔を覗き込みながらくすりと笑った。
ぐしゃりと頭を掻いてクラウドはふいっと視線を彼女から外した。
観念したように目蓋を一回閉じて、それから溜息をひとつ零す。

「気持ちがギスギスしてたんだ。
 ・・・セフィロスを皆で追っているときは気付かない。
 でもこんな月の夜は、俺の中の不安や焦りが浮き彫りにされるようで落ち着かなくて――――」

エアリスは黙ったまま、肩のショールを指先で弄っていた。
クラウドは徐に立ち上がって、背中を彼女に見せる。

「そしたら君が窓辺に立っているのが見えた。
 うだうだ考え続ける自分が嫌で、君に声を掛けたんだ」

ふわりとエアリスも腰を上げた。
するりとショールが流れて、ベンチにわだかまった。
二,三歩動いてそれから とん、と彼の背中に頭を預けて。

「・・・・・・月の光は怖いの。
 あれは、未来を予感させてしまう」
「エアリス・・・?」

「えへへ」

一瞬泣いているのかと思って、クラウドは慌てて彼女に振り返った。
だがその瞬間には彼女はいつもの悪戯した子供のような笑いを浮かべて 両手でクラウドの顔を包みこんだ。

「わたし、月を見ながらクラウドに会いたいなあ、って思ってたんだ。
 だからクラウドが夜の散歩に誘ってくれてすっごく嬉しかった。
 こーゆーのって何?ほら、テレパシーってゆーか?
 思いが通じ合ってるみたいな?」
たちまちクラウドの頬が赤くなった。
エアリスはますます花のように笑ってクラウドの首に腕を回す。
「ほんとに嬉しい。
 みんなには内緒にしようね。今夜のデート」

無邪気に喜ぶ彼女が愛しくなってクラウドは彼女を抱きしめた。
ささくれていた彼の神経が急速に癒されていく。
細くて小さな身体が彼に取っては無くてはならない大きな存在だった。


「・・・どうして」

「なあに?」

「俺はあんたのボディガードのはずなのに」

「うん」

「逆みたいだ――――――」

「わたしそんなに頼もしい?」

「ばぁか・・・」



やがて山の端から白み始めてきたことに気付き、ふたりは 宿に戻ることにした。
少し照れながら、それでもお互いの右手をしっかり握り合って。
・・・月は大きく傾きながらまだ煌々と光りを放っている。


星が、騒がしい


エアリスは空を仰ぐ。
拡がってしまいそうな意識を繋ぎ止めてくれているのは ただクラウドの手の温かさ。

ふたりがこうしてふたりでいれば、それだけでいいのに。

足元の石畳がぼやけた。
慌てて気付かれないように彼女はまた顔を上げる。

今夜は変だ。
ふたりとも。





未来(さき)が視えない男と

未来(さき)を見据える女と



月の光だけをあいだに纏って


ロミジュリっぽくなあ〜〜い!!(T.T)
しかも暗い・・・どよどよ。
sorrelさんトコのようにかっこいいクラウドが
打ちたかったんですが・・・すいません(^^;
いやはやわたしのクラウドは情けなさ過ぎ〜!
ところでタイトル、どこかで聞いたネタなんですが思い出せません。
なんだったっけ??
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