両手一杯の荷物。
賑やかな街並みをそんな姿で歩いてゆくのはいささか恥ずかしかった。

「おい、まだなのか」
「まあだv」
「こんなに買い込んでどーするんだよ」
「ひ・み・つ!」
「・・・・・なあ」
「はい?」
「俺、帰りたいよ・・・」

頭上にはガンガン照りつける太陽。
汗でべとべとの背中。
何より抱えてる荷物。訳の解らない、たくさんのもの。

「重い」
「え?」
重い!!

びっくりしたようにエアリスは目をパチパチさせて、それからぷっと吹き出した。
「何言ってるのよ、クラウド。
 あんなおっきな刀振り回してた癖に」
「・・・違うんだよっ!それとこれとは!!
 武器と一緒にするなっ!」

ぜいぜい。
息が切れる。

とん、と人差し指を頬に当てて、エアリスは暫し考え込むような素振りをした。
これが強烈にかわいい。
俺より齢が上とは思えない。ほんと。
彼女は結構物言いがきついんだけど、こういった和み系容姿が大きくそれを フォローしてるのはまず間違いない。
・・・って、おい。

「いつまで考えてるんだよっ!?
 俺、限界だ、休ませてくれ、喉も渇いた、日陰も恋しい、クーラーなんて言わないからさ!!」

再び目をぱちくりさせて、漸くわかったわ、と頷いて エアリスは俺の背中を押し始めた。
「お、おい?」
ぐんぐん、俺の言葉も聞かずに押しまくる。
自然足は前方へ進んでゆく。

頼む。待ってくれ。
紙袋から何か零れそうだ。いやその前にこれ、破けそうだよ。
こんなヤワな袋になんてたくさんの物を詰め込んでるんだ、店のレジ係!!
なあ。
まずいって(半泣)

心の中で抗議の悲鳴を上げつつ。
俺はやっとの思いで微妙なバランスを取りながら、彼女に押されて歩く。
何故声に出さないかと言えば、そんなことをして少しでも気を抜けば、どさどさと路上に 大荷物をばらまきそうになるからだ。
その時のエアリスの怒りを考えるとそんなことは絶対に出来ない。
質素な生活を送ってきた彼女は物が粗末に扱われることは 許さない。特に食物、菓子類は。

(ここで俺は粗末に扱われてるんだよなー、理不尽だ・・・・・・)



やっとの思いで公園のベンチに辿り着くとエアリスはにっこり笑って (これが極悪にかわいい)俺の肩をぽんぽんと叩き、座るように言った。
俺は自分が座るよりも、まず細心の注意で両手の荷物をベンチに置いて、 そうしてやっと大きく深呼吸をする。

ああ、木陰だ、涼しいなあ。
しびれかけた腕をぐるぐると回して、感覚を取り戻す。

「クラウド、ちょっと待っててね」
これまた可愛らしい声で俺の耳元で囁くと エアリスは長いスカートをひらひらさせて駆けていった。
思わず熱くなった左耳を押さえて、ぼうっと彼女の後ろ姿を見送る。

・・・情け無いぞ、俺。
モンスター相手にびしばし決めてた過去の栄光が
懐かしい――――・・・

取りあえず、ベンチの荷物を端っこに寄せて、どっかりと腰を下ろした。

首筋を汗が流れてゆく。
あっちいなあ。

ちらりと横の荷物を見遣って。
こんなにたくさん買い込んでどうするんだ、とぼそりとまた文句を言ってみた。
だけどなあ。
俺の腕を取って是非一緒に出掛けようと嬉しそうに話してきたのは彼女だ。
そんな彼女を見て舞い上がり、しっかり頷いたのは俺だし。
・・・弱いんだよなー、彼女には。



鳩たちがくるくる鳴きながら目の前を歩いてゆく。
風が心地よく汗を乾かして、やっと気分も落ち着いてきた。

「・・・・・・」
遅いよな。エアリス。
どこに行ってるんだ?

腰を浮かして、エアリスの走っていった方向に身体を向けた時、 微かに聞こえた、声。
「・・・ウドォ」

こういう時のカンには、自信がある。
伊達に幾つもの戦闘を潜り抜けてきたわけじゃない。
ぐっと背に力を入れて、考える間も無しに足は地面を蹴っていた。
幾ばくも立たない内に視界にエアリスのピンクのリボンが映る。

ズザザザザザ!

土煙と共に急ブレーキをかけて、俺は彼女と、彼女に絡んでいたらしい ふたり連れの男達の間に割って入った。

「・・・え・・・?」
いきなり出現した俺にビックリして、男達は固まっていた。
「クラウド!!」
ちょっぴり半泣きになりながらエアリスが俺の背中に隠れるように 縋り付く。
唐突に現れた俺の姿に驚きもしないところは、さすがだよなあ。
まあ、こういうパターンもこれまで幾度となく・・・

「な、なんなんだ、てめえ」
硬直状態からやっと覚めたのか、右側の男がどもりながら俺の方を睨む。
「ほう?
 見てわからないのか?」
にやり、と唇を吊り上げて俺は彼女の肩をぐっと抱き寄せた。
「・・・っの野郎!!」
挑発に見事に引っ掛かった男達は俺に掴みかかろうとした。
馬鹿が。
よく覚えとけ。
そっちが喧嘩を売ってきたんだからな。

「きゃ〜、クラウド!素敵!!」
エアリスがぴょんと飛び上がり、着地した時には全てのカタがついていた。



「はい、クラウド」
さきほどのベンチに仲良く俺たちは腰掛け。
エアリスはずうっと握り締めていた缶コーラを俺に手渡してくれた。
そうか、これを買いに行ってくれてたのか・・・俺のために
思わず、頬が弛む。
「さっきはありがと。しつこくて困ってたの」
甘えるような上目遣いで、小さな声で囁いて。
そして彼女はさっと視線を辺りに巡らせると掠めるように俺の頬に唇を落とした。
そうして頬を薔薇色にして、俯く。

・・・堪らない。
ここが公園じゃなくて。今が真っ昼間じゃなかったら。
俺・・・押し倒してる・・・・・・

「さ!これ飲んだらあと一頑張りだから!」
ああ、この買い物袋たちか・・・、うんざりだが仕方ないな。
かわいい彼女の顔も見られたし。キスもして貰ったし。
―――なんて現金な、俺。

「なあ、こんなに買い込んで何かあるのか?」
「秘密っていったじゃない」
「・・・いいじゃないか、な?(少し甘えたような声で言ってみた)」
「そうね・・・ま、いいか!
 これね、みんなで誕生日のパーティーをしようと思って。
 その準備」
「へええ。誰の誕生日なんだ?」
「・・・やだ、クラウドったら」

エアリスは目を大きく見開いたかと思うと、次の瞬間にはあははと声を上げて 笑い出した。
「なんなんだよ!?」
「ねえ、クラウド!
 夏生まれの人なんてあなたしかいないじゃない!?」

あ。
言われてみればもうすぐ俺の・・・・・・

俺!?

じゃ、なんで俺がこんな買い出しに付き合わされてるんだ!?
理不尽じゃないかっ!!
エアリスはともかく、仲間の誰も疑問に思わないのかっ!?

呆然とした俺の表情を、どう思ってるのか(せいぜい誕生祝いをしてくれる嬉しさに 浸ってるとか思ってるんだろう、彼女は)エアリスはニコニコしながら 見つめている。
碧の瞳がきらきら輝いて。

・・・抑えろ、クラウド。
今の心の叫びは決して彼女の前では出してはいけない。
帰ったら、バレットかシドか、あいつら辺りに存分に文句を言えば良いんだ。
ああ!そうだとも!!

「は、はは、そうか。
 俺の誕生日か。すっかり忘れてたよ。驚いたなあ」
ったく。棒読みの台詞が悲しいぜ・・・・
「わたし、お料理苦手だけど頑張るね!!」
じ〜ん・・・それだけで俺の苦労は報われるよ、エアリス!!

「さ、これ飲んで!!(にこにこにこにこ)」
「ありがとう(・・・かわいいなあ)」

だが。その缶コーラは。
ここに至るまでに思いっきりシェイクされていたことに、 またしても俺は気付かなかった――――――


・・・誰なんですか?この人達は?
暑さでみきは頭が壊れたようです・・・(^^;
いや、好きなんですよ、こういうの。つい筆が滑りました(笑)
これでも幸せなんです、 これがわたしのクラなんです・・・
すいません、御子神さん・・・ヘ(__ヘ)☆\(^^;)
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