その日は朝から小雨が降っていた。
さわさわと木々が濡れる音がひっきりなしに聞こえてくる。


「エアリス」
部屋にいない彼女をクラウドは漸く村外れで見つけだした。
傘も差さないで、ただ、空を見上げている。
「エアリス」
自分に気付かない彼女を、もう一度呼んだ。
やっとエアリスは顔を動かしてクラウドの方を向く。
「あれ?クラウド。
 どうしたの、こんな所で傘も差さずに」
ふわりと微笑んで、彼女は小首を傾げた。
しっとり水気を含んだ長い髪は彼女の背を覆うように くるくると跳ねている。

やれやれと溜息を大きくついてクラウドは彼女の肩を引き寄せた。
「傘を差すほどの雨量じゃあないし。
 大体、長いこと外にいてずぶ濡れになってるのは誰だよ?」
エアリスの耳朶に小さくキスを落とすと、彼女の顔がぱっと赤く染まった。
それからやっと気付いたように
「だって気持ちよさそうだったから。
 もう濡れたって寒くないし・・・・・・」
やや抑えた声で言い訳をする。

「雨が好きなのか?」
「うん、好きかも。
 雪とかね。
 でもめいっぱい降ってくる感じじゃあなくて、こんな風にささやかに降ってくるのが好き」
「ふうん」
「・・・あ、なんか聞き流してるって感じ?クラウド」

ぷっくり頬を膨らませて、エアリスはクラウドの鼻の頭を摘んだ。
「真面目に聞いてよぉ」
「いたた。聞いてるじゃないか。大体なあ」
するりと彼女の指から逃れるとクラウドは彼女の攻撃を再び受けないために 腕ごとエアリスを抱き込んで、ふて腐れたように呟いた。
「俺、あんたに会いに行ったら部屋はもぬけの殻だし、
 しかもこんな人通りの少ない所で不用心にも突っ立てるし!
 第一、あんた服が濡れて身体の線まで判っちゃうじゃないか!!」
クラウドにしては珍しく、怒濤の如く捲し立てたので驚いてエアリスは目を丸くしていた。
やがてぷっと吹き出して、抱きしめられたまま 彼の胸に顔を埋める。
堪えきれないといった風に肩でくすくすと笑いながら。

引っ込みが付かなくなったクラウドは仕方なく腕に少し力を込めた。
「やん、痛いよ」
「・・・じゃあ、笑うの止めろよ・・・」
彼の不機嫌そうな声も、彼女の笑いを止めることは出来なかったようで まだ小刻みに肩が震えている。

「ったく」
クラウドは不意に腕を外すと、いきなりエアリスの顎を持ち上げた。
彼女が何か言おうとした唇を間髪入れず、自分のそれで強く塞ぐ。
「ん・・・」
幾度も角度を変えて深く貪ってくるそれをエアリスは素直に 受け入れていた。



さらさらと雨の音。
何処か遠くでせせらぎの音。



漸く唇を離すとクラウドは真っ赤になっている彼女の額に人差し指を とん、と弾く。
「やっと止まった」
今度はクラウドの方がくすくすと面白そうに笑い出した。

「いじわるー。
 元々意地悪いとは思ってたけどー」
「なんだよ、意地悪の本家はそっちだろう?」
「え〜、わたしは狡いんだよ〜。
 伊達にクラウドより長く生きてないもん」
「そうだよなあ、純粋な俺を騙してるんだ、エアリスは」

そんなことを言いながら、お互いの額を寄せ合って、睦ぶように じゃれ合う。
顔に張りついた相手の髪を指に絡ませて、笑う。



雨は変わらず、優しく降り注ぐ。










「ねえ、知ってる?」
帰り道、エアリスがまた空を見上げて訊いてきた。
「星の糧(かて)は、全て空から降ってくるのよ」
「?」
「おかあさんが、そう言ってた。
 始まりも、変化も、終わりも――――――あの空の向こうから 降りてくるんだって」
ぽりぽりと頭を掻いて、困ったようにクラウドはエアリスを見た。
「解ったような、解らないような・・・。難しいな」
「そう?」
子供のような笑顔でエアリスはクラウドを見遣った。
そして小さく舌を出して、肩を竦める。
「実はわたしも。
 なんとなくしか、わからない」

クラウドは彼女の右手を取って、彼女の指の一本一本を 自分の指に絡ませた。
「・・・クラウド?」
「空から降りてきて、流れていくものも、過ぎ去ってしまうものも在るんだろうけど―――――俺は」

それきりクラウドは口を噤んで。
己の指に絡ませたままの彼女の右手を引き寄せ、その甲に軽く唇を寄せた。
エアリスもその言葉の先を敢えて訊くこともなく。

肩を寄せ合ってふたりは歩き続けた。


幸せ度が少ないような・・・(^^;
甘甘度も少ないような・・・(^^;
でも充分幸せ甘い気もするんですが、わたし的には(笑)
御子神さん、幸せにみえます・・・?あうう。
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